01
クリフ・カーソン。
レシリッド・リーチェル。
コッツァ・ハミルサン。
リーシャ・デュカス。
「あと、なんだったけなぁ」
リーシャは厨房の隅で天井を見上げた。決して低い天井ではないが、ロンが入って来て間もないときにフライパンから発生させた火柱によりできた焦げ跡が見えた。
「料理長、俺買い出し行ってきます!」
大きな空袋を背負ったロンが声をかける。
「おー、気をつけてな」
手を振ってロンを見送り、誰もいなくなった厨房で定位置に座る。そしてポケットから黒糖の飴を取り出し、口の中に入れる。左右にコロコロと舌で転がしていると、「アソラァァッ」と爆音が響いた。
「お、呼ばれたな」
呼ばれた黒い髪の侍女はどのような気持ちでこの声を聞いているのだろうか。
仕事の合間に呼ばれ煩わしさは感じないのか。
うるさいと思ったりしないのか。
それとも、と思っていると誰かが厨房に入って来た。
「はぁ」
その顔を見てリーシャはため息をついた。
「人の顔を見てため息をつくのは感心しないな」
ハロルドは目を鋭くし、リーシャを睨む。ただでさえ背の高い男に、座っている状態で見下ろされると、威圧感が凄まじい。ロンだったら顔を真っ青にし、震えあがっているところだ。
しかしリーシャは平然として、コロコロと飴を舐めながらハロルドに「で、何?」と尋ねた。
「仕事だ」
封筒が頭の上から降って来る。それを掴み、リーシャは中を確認する。
中には一枚の写真があった。
「彼女は、財務大臣の三女、フルール嬢だ」
少し吊り目な女性が質素な服を着ていた。
「絶賛家出中だそうだ」
ハロルドがそう言い、リーシャは肩を落とした。
この男の言いたいことが分かった。
「で、この令嬢を誑かして何を聞けばいいんですか?」
内容を聞いてリーシャはますます憂鬱になった。
「名前は、エリオ・パナリアとかでどうだ?」
「あー、もうなんでもいいです」
また一枚増えた仮面にリーシャはさらに肩を落とした。
 




