07
一人で延々と作業をし、マリーが寝る時間になる頃、笑顔のピカリがアソラのもとへやって来た。
「あ! アソラさーん!」
「お疲れ様です」
「いや~! 屋敷内誰もいなくって終了報告できなくて困ってたんですよね~」
本当に困っていたのだろう。
ピカリの眉が下がって苦笑になっていた。
使用人たちは明日に備えて各々部屋に引き籠っていた。
「申し訳ございませんでした」
アソラが頭を下げるとピカリは思いっきり両手を左右に振った。
「いえいえ! 気にしないでください!」
アソラが頭を上げると彼女はいつもの笑顔に戻っていた。
「特殊加工全行程終了しましたので、こちらに署名お願いします!」
厚手の軍手を取り、作業ズボンから一本のペンを取り出し、胸ポケットにしまっていた用紙をアソラの前に出した。
その際に彼女の右手の甲に火傷の跡があるのを見つけた。その視線に気づいたのかピカリは「すみません~」と右手を引っ込めた。
「見苦しいものをお見せしちゃって」
署名をしてアソラは用紙とペンをピカリに返す。
「いえ、こちらこそ不躾に……申し訳ございません」
「昔、触っちゃいけない薬品を素手で触ったときにできたものなんですよね~。若気の至りってやつです」
にこっと今日一番の笑顔を浮かべて、彼女は台車に手をかけた。
「では、正式に依頼を受けたらまた明後日来ますね!」
明後日の仕事の依頼は血の後始末だろう。
「頑張ってくださいね~!」
そう言い残し、彼女は台車を引いて帰って行った。
正式に依頼が行けば彼女は纏まったお金を手にする。
人が争うことで生まれる仕事。
タントッラ王国には色々な仕事があるな、とアソラは自室へ足を向けた。




