05
「あのとき旦那様に拾われなかったら、私はどうやって生きていいか分からず死んでいたと思う」
数人の心臓が少し跳ねた。
「私はマリー様の侍女となったからこうして生きているだけで、旦那様に縛られなければ生きている理由も分からず死んでいた。まともそうに見える元軍人は何かに縛られることで命と理性を繋ぎとめているだけ」
誰も口を開かず数秒経つと、エリーがこらえきれなくなったのかぷっと息を吐き出し、笑い出した。
「なにか面白いことでも?」
アソラの黒い瞳がエリーに向けられるが、エリーは怯むこともなく言った。
「いやぁ、私目に見えて壊れている元軍人しか見てこなかったからぁ、アソラの話聞いてきたらさぁ、元軍人も私も大差ないんだなぁって思って安心したよぉ」
魔女は楽しそうに目を細めた。
「元軍人も所詮人間なんだ」
その静かな声音はいつものエリーではなく、違うエリーが現れたようだった。しかしすぐにいつものエリーに戻った。
「じゃぁ、私はいつも通り一階でお薬炊いとくねぇ。ガラ護衛よろしくぅ」
エリーは薬以外に自分を守る術がないため、もしものときようにガラの近くにいることが多い。何故エリーの護衛がガラの仕事になったかというと、以前ハロルドがそう命令したからだった。ハロルドに圧倒的忠誠心を持つガラは「お任せください!!」と声高らかに快諾した。それ以降鬼神は魔女の盾となった。
「さて、それで決行はいつなんだ」
ボアズがハロルドに声をかける。
アソラのように滅多に表情を変えないハロルドだったが、この日は珍しく口角を上げた。その表情にガラは息をのんだ。かっこいいと叫ぶことを我慢できたのは奇跡だと後々彼は語る。
「明後日の夜だ。楽しみだろう?」
「新月の日か」
ボアズが呟き、嗤った。
「だが私の庭で見えないものはないからなぁ、満月だろうと新月だろうと何も変わりはしない」
同意するようにハロルドが頷いた。
「そうだ、例えどのような日だろうとも我々がすることは変わらない。我々はこの屋敷と、主人を守る。ただそれだけだ」




