02
車が遠ざかるのを見送る。
耳に元気のないマリーの声が残っている。
「おや、うるさいご主人様が静かで悲しいのかな」
背後からロイドが声をかけて来た。話しかけるどころか見かけると踵を返していたロイドが、あの一件からやたら声をかけてくるようになり、最初は戸惑いを見せていたアソラもそのしつこさに戸惑いは消えた。
「何しに来たの」
短く問うと「執事長がお呼びだよ」と女が見惚れるような笑みを浮かべて答えた。
アソラは、そのときが来たことを悟った。
キュリラス家に別の自家用車でついていったのはローザを筆頭とした一般の使用人たち。そして残る半分はしばしの休暇を与えられ、屋敷を出て、故郷に帰って行った。
わずかに残る使用人たちはマルリットが自ら雇ってきた者たち。
マリーの風邪を口実にこの屋敷から追い出したのもそれが原因だろう。
静かになった屋敷を見上げる。
いつも聞こえるあの声が聞こえない。
「アソラ」
見上げていた視線を隣の男へ移す。
「ほら、行こう」
差し出された手を無視し、アソラは屋敷へ入って行った。
「つれないなぁ」
そう呟きながらロイドはアソラの後ろをついて歩いた。
 




