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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
侍女と執事の会議
81/120

01

「……アソラ」

「はい、なんでしょう」

 いつもとうって変わって正面にいるアソラと、背後に控えるトーマスにしか聞こえない声で、マリーはアソラを呼んだ。

 顔を真っ赤にし、涙目なマリーは震える足で必死に立っている。

「マリー様、お辛いのなら早く車に乗ってください」

 アソラがマリーの肩に手を添えて、車に乗せようとすると、マリーは「うぅ」と小さく唸った。

「ほら、アソラが困っているでしょう。行きましょう、マリー」

 既に乗車して待っているベルベッドが声をかけたことで、マリーはさらに「うぅぅ」と唸る。

「元気になればすぐに帰ってこれるわ」

 アソラが唸るマリーの額に手を当てると、冬にも関わらず火傷しそうなほど熱い。

 マリーはあの雪の日から久々に体調を崩した。

 三日三晩寝こみ、動くこともままならなかった。

 心配した母であるベルベッドが自分の実家であり、この地域よりも南に位置し、暖かいキュリラス家に療養に行こうと提案した。父であるマルリットはそれを了承した。そこまではよかったのだが、ある条件によりマリーは怒り狂った。

「……なんで、アソラと離れなくちゃいけないの!」

 アソラはジョーダン家に置いていけ、と彼は言った。

 どうして、と反論する娘に父は「仕事があるからだよ」とだけ答え、そのまま屋敷を出て行った。

「嫌よ、私は行かないわ」

 小さい子のように首を左右に振り、行くのを渋る。

 トーマスとローザが困ったように視線を交わすのを見、アソラはマリーの前に跪いた。そしてその手を握る。

「大丈夫です。私はどこにも行きません」

 アソラの黒い瞳がマリーを見つめる。

「マリー様が元気になって帰ってくることを待っています。元気になりましたら、マリー様が行きたいところへ一緒に行きましょう」

「……本当にどこにも行かない?」

「ええ」

 信じることは疑うより難しい。

 でも、マリーは小さく頷いた。

 ふらついた足で車に乗るマリー。

「マリー様……に……から」

 無理をしていたようでマリーは座った途端、ぐったりとベルベッドの肩にもたれかかった。何かを言っていたアソラの声も届かず、マリーは目を閉じ、深い眠りについた。

 意識が沈んでいくとき、マリーはわがままでいようと決めたのに、とわがままを言わせてくれないこの体を恨んだ。

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