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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
温室管理人の追憶 番外編
80/120

10

 トナが苦い茶を無理矢理飲まされている時間、マリーの部屋にノックの音が響いた。

「はい、誰?」

 こんな時間にと顔を顰めるが、「アソラです」って声を聞いて、マリーは飛び出すように部屋の扉を開けた。するとマリーの視界を真っ赤な薔薇が埋め尽くした。

「え!?」

 マリーは理解が追い付かず、薔薇とアソラを交互に見る。

 口をぽかんと開けているマリーを見て、アソラは思っていた反応ではなく、首を傾げた。

「嬉しくないですか?」

 マリーは昼間のことを思い出した。

「え、もしかしてアソラ、あのときの言葉覚えて……」

 確かにマリーは何気なく薔薇の花束を貰えたら、と言った。

「う、嬉しいわ! でもアソラは、そんなこと思っていなかったみたいだったから、まさかくれるなんて」

 珍しく戸惑ったような主人の姿を見たアソラは「あぁ」と呟いた。

「すみません、花束に限らず、マリー様以外から物を貰うということがなくて、実感が湧かなかっただけです。でもそうですね」

 アソラがマリーを見る。

「マリー様が花束を贈ってくださるのならば、どんな花でも嬉しいですね」

 マリーの心臓がとてつもない速さで脈打つ。

 顔が薔薇に負けない程真っ赤になっていくのをマリーは感じた。

「で、マリー様」

「へ……?」

 薔薇の花束を持つアソラがいつもより五割増しでかっこよく見えるマリーは、落ち着かせようと昨日の献立を頭の隅で考え始める。

「花束、貰ってはくれませんか?」

 少し寂しげに下げられた眉のアソラを見て、マリーは震えながら叫んだ。

「あ、ありがたく頂戴しますわ!!!」

 アソラには女心は無いが、女心を擽る能力はあった。

 普段滅多に聞かないその言葉にアソラは一瞬疑問に思ったが、マリーが花束を受け取り、嬉しそうに微笑んでいる姿を見たら満足した。

 その後、屋敷がまるっと一軒買える値段の花瓶にアソラからもらった薔薇の花束を眺めるマリーの姿をよく見かけることになる。

「ちゃんとね、押し花にもしたのよ!」


番外編完

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