09
その視線に気づいたトナは「なんだ」と首を傾げた。
「私、トナのことが大好きよ」
「……急にどうした。あまり高い物は買えねぇぞ」
茶化すようなことを言っているが、トナが照れていることは一目瞭然だった。
「でも、私はお嬢様のことも同じくらい大好きなの」
今はもうベルベッドの侍女ではなくなってしまった。
ただの温室管理人と、国有数の資産家の奥方となった二人。
会う機会もそうない。
それでも、ステラにとってベルベッドは大事な存在だった。
その言葉を聞いたトナは優しく笑った。
「今更だろ」
それに、と続ける。
「好きな人間が多いことが悪いことだとは、俺は思わない。それで誰も泣いてなきゃそれでいいだろ」
トナは食後に、見た目に似合わないお気に入りのローズティーを飲む。
その穏やかな姿にステラは幸せだと思った。
「私がお嬢様大好きでトナは泣かないの?」
「お前がお嬢様大好きってことは、お前が五歳のときから知ってるんだぞ。今更泣くわけないだろ……俺がこの先泣くことがあるのは、お前がいなくなるときだけだ」
真っ直ぐな視線がステラを射抜く。
「だから、俺より先にいなくなったりするなよ。俺がいなくなったらちゃんとお嬢様に慰めてもらえるように遺書書いといてやるよ」
トナがははっと笑うと、突然ステラが立ち上がり、緑色をした液体の入った瓶を戸棚から出した。
それをトナがローズティーを飲み終えた空のカップに注ぐ。
青臭い香りがトナの鼻を刺激する。
「なんだ、これ」
「体に良いって言われている草の茶。ほら、早く飲んで」
おずおずと口に含むと、とてつもない苦みが口の中一杯に広がる。口の中に広がるローズが途端に消え失せた。
「まずっ」
舌を出して、顔を顰めるトナを見てステラは楽しそうに笑った。
「私を泣かせないように、毎日飲んでね」




