08
「あの」
「どうしたの? 忘れ物?」
珍しくアソラが一人で温室にやって来た。マリーと共にここを離れたのは数時間前だ。
「いえ、お金は払うので花束を作ってもらうことできますか?」
その言葉を聞いたステラの脳裏を過ったのは真っ赤な薔薇。
アソラを見るが、彼女の表情は変わらず、相変わらず何を考えているか分からない。それでも、アソラの気持ちは分かったステラは優しく笑った。
「ええ、できるわよ。でもお金はいらないわ」
薔薇のとこへ行き、パチンパチンッと茎を切っていく。
「そういうわけには」
できるだけ多くの花を切って、マリーが喜びそうな淡い色のピンクのリボンでラッピングする。
「いいのよ、薔薇の花は自宅でも咲いてるから、なにか入用なら自宅から持ってこればいいもの」
ボリュームのある花束をアソラに渡す。
黒い髪と瞳の彼女に赤い色がとても似合っていて、ステラは「あら」と目を輝かせた。
そして一本だけ彼女のエプロンに差し込んだ。
「これはあなたの分」
「ありがとう、ステラ」
彼女がほんの少し笑ったような気がした。
「ただいまー」
自宅に帰ると「おかえり」と昔より皺が増えたトナが奥から顔を出した。
「ねぇ、薔薇、明日屋敷に持って行ってもいい?」
自宅の庭管理をしているトナに尋ねると、老眼鏡を外し、ステラを見た。
「ああ、いいけど、屋敷にもたくさん咲いたって言ってなかったか?」
最近字が見にくいと漏らした彼に、ステラは意気揚々と老眼鏡を買って渡した。最初は渋っていたが、それが見やすいと分かると躊躇いなくつけるようになった。
「それがね」
今日あったことを、ご飯を食べながら話す。
これがステラとトナの日常だった。
「だから私も久々にお嬢様に花束でも贈ろうかなって」
「それはいい、お嬢様も喜ぶさ」
ステラがトナを見る。




