06
ベルベッドとステラが驚きのあまり目を丸くする。
「な、何を仰って」
「もし貴女が私と結婚してくださるのであれば、私は貴女の活動を全面的に支援致します。時には私の仕事も手伝ってもらうこともあるかもしれませんが、貴女を屋敷に閉じ込めておくつもりはございません。あぁ、そうだ、身辺の護衛も数人置きましょう。貴女はただ、自分の思うように生きてくれればそれでよいのです」
ステラはこの甘美な言葉を紡ぐこの男に対し、不信感を抱いた。
握られた手からベルベッドが何かに冒されそうな気がして、すぐさまその手を払いのけたい衝動に駆られた。
「……それではあなたに何のメリットがあるのですか?」
ベルベッドが怪訝そうな顔をし、問う。
問われたマルリットは少年のような笑みを浮かべた。
「メリットだらけですよ!」
ベルベッドから手を離し、席に戻る。
「お恥ずかしいですが、第一に私は結婚しなければ父の跡を継ぐことができない。一人の女性を幸せにできずに、お客様や従業員たちを幸せにできるものか、というのが父親の言葉でして、まったくもって耳が痛い」
言われたときのことを思い出してか、彼は眉間に皺を寄せて、両耳を塞ぐポーズをした。
「第二に私はもっとジョーダン家の名の知名度を上げたい。貴女にしてみれば面白い話ではありませんが、キュリラス家は由緒ある貴族であり、聖女と名高い、キュリラス家の令嬢と結婚できれば私の知名度も上がります」
そして最後に、とマルリットは告げた。
「純粋に貴女の行く末を見てみたい」
「行く末?」
その言葉にマルリットは頷く。
「貴女が思っている以上に人間の闇は深く、助けられたことを純粋に喜ぶばかりの人間だけではない。偽善だと貴女を罵り、ときには手をあげてくる輩もいるだろう。それでもなお、貴女は人の為に生きていくのか、それともそんな人間に絶望して屋敷に籠るのか。それが見てみたい。あぁ、でも私としてはどちらでも構いませんよ。美しい貴女が屋敷で私の帰りを待ってくれているのも幸せなことですからね」
そこで彼は口を閉ざした。
ベルベッドの瞳を見つめる。
「私は貴女と結婚したい」
ベルベッドの瞳が揺れた。
濃厚な甘い声が部屋を包み込む。
「私は貴女の望みを、すべて聞くことができ、そして貴女のすべてを守ることができる」
その言葉を聞いて震えたのはステラだった。
握り締めた掌から、ぷつりと血が滲んだ。
 




