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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
温室管理人の追憶 番外編
74/120

04

「よぉ、ステラ。また眉間に皺が寄っているぞ」

 花瓶に活ける花を探しに温室に行くと、ベゴニアの花を抱えたトナに出くわした。出会ったときより少し歳をとったトナがステラの眉間に指をあてる。

「眼鏡しててもまだ見にくいのか?」

 ステラが十になる頃、人を睨むことが増えた。

 睨まれるようなことをした覚えのない人たちが困惑しながら、ステラに「どうした?」と尋ねることが続き、そこでステラは初めて、見にくいことが分かった。

 ベルベッドに見にくい為、睨むような目つきなるかもしれない、と謝罪を前もってすると彼女は眼鏡を彼女に与えた。

 それをかけると、昔のような綺麗な光景が広がった。

『これで大丈夫ね!』

 眼鏡をくれた主人は満足そうに笑った。

「見にくいわけじゃない」

「じゃあ、お嬢様のことか」

 ステラの母親は三年前に亡くなってしまった。

 それ以来、相談事があると頼ってしまうのがトナになった。

「お嬢様は人の為に生きていきたいと言うのだけれど、外は危険がいっぱいだし、お金があるってだけで狙われるでしょう。できることなら屋敷の中で、危険を知らずに生きていてほしい」

 ステラはベルベッドのしたいようにさせてあげたかった。それに偽りはない。しかし、ベルベッドの身を思うと、一抹の不安が心の中を黒く染める。

「慈善活動の際に襲われる例だってある。お嬢様が刺されて死んでもしまったら……私は、どうやって生きていけばいいの」

 ステラの眉間の皺がさらに深くなる。

 想像しただけで震えが走る。

「私にお嬢様を守る力があれば」

 華奢な自分の掌を見て、ステラは落胆した。

「お前はお嬢様を守っているさ」

「……慰めなんかいらない」

 吐き出すように言うと、トナはもう一度同じ言葉を繰り返した。

「守っているよ。お嬢様が誰かの助けになりたいなんて自分の思いを素直に口ができるのはステラ、お前にだけだ」

 ステラの大きな目がトナを見つめる。

「自分がやりたいこと、思っていることを素直に誰かに言えるってだけで幸せなもんだ。お前はお嬢様の心の安寧を守っている。実際に護衛という面では守ることは出来ないが、それが守るってことのすべてじゃない」

 持っていたベゴニアの花をトナはステラに渡す。

「どんなときでもお嬢様の心の支えであってやれ」

 花を受け取ると、トナは「頑張れ」と笑った。

「……初めてトナをかっこいいと思った」

「俺はいつだってかっこいいだろ!?」

「くたびれたおじさんじゃん」

 ステラが口を開けて笑う。

 まだ何か物申したそうだったがトナは諦めたように頭をかいた。

「はぁ、くたびれたおっさんで結構」

「で、トナにはやりたいことあるの?」

 眼鏡の奥から興味津々という目が見える。

 トナは小さく笑った。

「もう叶ったよ」

「え!? なにしたかったの?」

「花を育てることだよ」

 そう言うとステラは「花?」と目を丸くした。

「くたびれたおっさんにしては可愛い夢だろ」

 詳細を聞こうとすると外からステラを呼ぶ声が聞こえた。そろそろ客人が来る時間なのに、花瓶に花が活けられてないので他の侍女が探しに来たのだろう。

「うっ」

「ほら、呼ばれてるぞ」

「また聞かせてね!」

 後ろ髪をひかれながらステラは温室を出て行った。

 一人残されたトナも温室から出た。

「夢か」

 トナの故郷はどこを見ても焼け野原だった。

 昔は花が咲き誇る綺麗な土地だと言われていたらしい。でもトナはその光景を知らない。彼が生まれる前にその土地は戦火に巻き込まれ、花はいとも簡単に燃えてしまったからだ。

 でもある日、見つけた。

 小さく頑張って一輪だけ咲く花を。

 それを見て、トナは泣いた。

 もっともっとたくさん咲け。

 誰にも燃やされず、誰にも踏みつけられず、自由に咲け。

「お、来たか」

 客人が到着したのが見えた。

 キュリラス家の令嬢と同じ綺麗な髪色をした男が、眼光の鋭い背の高い執事を連れている。

「お嬢様にとって良い水になればいいんだがな」


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