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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
温室管理人の追憶 番外編
73/120

03

「お嬢様」

「どうしたの、ステラ」

 あれから月日が流れ、ベルベッドは十八、ステラは十五になっていた。

 ステラはベルベッドの専属侍女となり、今日も今日とてベルベッドの身の回りの世話をしていた。

 約十年の時を経てベルベッドは美しい女性になっていた。街を歩けば誰もが振り返り、舞踏会に呼ばれれば誰もが彼女と踊ろうと躍起になる。そして見た目だけではなく、貧しい者に進んで慈善活動をするその優しさは、まるで聖母のようだった。

 神から贈られた美しい髪を梳かしながらステラはベルベッドを呼んだ。

「今日お会いされる方、良き人だといいですね」

 ベルベッドの見合い話は彼女が十五になってから後を絶たない。

 まだ早いという理由で断り続け、早三年の月日が経ってしまった。そろそろ誰か一人を決めなさいと親からの圧もあり、ベルベッドは真剣に見合い話を考えるようになった。

「そうね、どうかしら」

 それでも彼女が乗り気ではないことはステラにも見て分かった。

「私結婚したいとはあまり思えないの」

 ステラの髪を梳く手が止まった。

「こうやって屋敷にいるだけの人生なんて嫌。もっと、誰かの役に立ちたいの」

 ベルベッドが視線を外へ向ける。

 何不自由のない生活をしてきた彼女は知っていた。

 外にはその生活を喉から手が出るほど欲する人たちが山のようにいることを。

「私がそう言うなんて偽善だと思うかしら。自分に余裕があるから貧しい者に手を差し伸べたいなんて、おこがましいことよね」

 自嘲するような口調でベルベッドが言う。

「戦争で手足を失った人、両親を喪った子ども、毎日を生きるだけで精いっぱいの人たちが世の中には大勢いる。全員を助けることなんて無理。分かっているわ。私は神様なんかじゃない。それでも、目の前にいる人だけでも助けてあげたい」

 ステラはあの暑い日を思い出した。

 きっと彼女は小さな背中を助けたいと思ったのだろう。

「私は、お嬢様に救われた一人です」

 ベルベッドの肩に手を置く。

 少しでも、私はあなたの味方だという気持ちが伝わるように。

「ステラ」

「はい」

 ベルベッドの細い柔らかい手がステラの手と重なる。

「ありがとう」

 その言葉は微かに震えていた。


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