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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
温室管理人の追憶 番外編
72/120

02

 ステラが五歳のとき、母親がキュリラス家に住み込みの侍女として召し抱えられた。

 父親が蒸発した為、母子二人は路頭に迷うことになり、たまたまキュリラス家の奥方に拾われたことが、ステラの人生の始まりだった。

 五歳のステラにできることは限られていたので、最初に与えられた仕事は庭の草むしりだった。

「子どもサイズは無いからな、悪いがこれで我慢してくれ」

 小さな穴が開いた大人用の麦わら帽子を被らされる。

 その姿を見たトナは「ぶかぶかだな」笑った。

 毎日端から順にむしっていく。大きな帽子を被った、小さな丸い背中がちまちまと移動する。

 その光景を自室の窓から見ていた少女は窓から離れ、部屋を出た。

「暑……」

 その日がとても暑かったことを、大人になった今でもステラは鮮明に思い出すことができる。

 陽炎のように揺らめいた視界を額から流れる汗が覆う。それを小さな手で額や頬を拭いていると、背後から声が降って来た。

「ねぇ、あなた」

 振り返ると細い足が見えた。

 麦わら帽子のつばのせいで上が見えない。

 ステラは帽子を押さえつつ、見上げた。

 そこには太陽の光をすべて跳ね返しているのでは、と思えるほど光り輝く金色の髪をした少女がステラを見下ろしていた。あまりの眩しさにステラの目を細めた。

 目を細めていると少女はしゃがみ、ステラと視線を合わせた。

 夏の海のような蒼い瞳がステラを見る。

「あら、ふふっ」

 少女が笑う。

 ステラはその顔を見て目を見開いた。

 こんな花が咲くような綺麗な笑みを生まれて初めて見たからだ。

「顔が泥だらけよ」

 ステラが見たこともない綺麗なハンカチを少女は取り出し、ステラの顔を拭う。

「あなたお名前は?」

「ステラ」

「ステラ、あなたは何をしているの?」

「草むしり」

「こんな暑い中で?」

 ステラが頷くと、彼女は口をとんがらせた。

「駄目よ、体に悪いわ」

 少女はステラに立つよう手を引っ張り促す。それに従うようにステラは立つが、首を左右に振った。

「でも、これが私の仕事」

 そう言うと少女は眉間に皺を寄せた。

「草が生えていたって誰かが死ぬわけではないわ。でも、こんなところにずっといたらステラが死んでしまうわ」

 それは駄目よ、と少女はステラの手を引いて、裏庭の隅に建っている庭師専用の小屋へ移動した。

 戸を開ける音が小屋に響いて、奥にいたトナが顔を出した。

「ステラ、暑かっただろ。もっと早く戻ってこい……ってお嬢様!?」

 トナが少女の姿を見て、悲鳴にも近い声を上げた。

「トナ、駄目でしょう。こんな暑い中、こんな小さな子に草むしりさせるなんて」

 トナがステラを見ると、丸い頬が真っ赤になっていた。

 冷たい水を持ってステラに近づき、麦わら帽子をとると、髪の毛は水でも被ったように濡れていて、湯気が見えそうなほどの熱気が伝わった。

「悪い、暑いから勝手に戻ってくるかと」

 トナから水を受け取り飲むと、冷たい水が熱くなった喉を通り、全身に冷気を運んだ。

「ふぅ」

 一気に飲んだのを見て、トナはもう一杯飲むようにステラに手渡す。

「お嬢様もすみませんでした」

 お嬢様という言葉を聞いたステラは、母親が最初にこの屋敷にはベルベッドというステラより三つ年上の令嬢がいることを教えてくれたことを思い出した。

「暑い日の作業は禁止! 小屋でのんびりしてなさい」

「いや、そういうわけには」

 じろりとベルベッドがトナを睨む。

「……はい」

 大きな男を黙らせたベルベッドにステラは「すごい」と呟いた。

 これがステラとベルベッドの出会いだった。

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