01
「アソラッ」
マリーが隣にいるアソラに呼びかける。
「はい」
「見てちょうだい、この薔薇とっても綺麗! これを花束にして貰えたら、とても素敵だと思わない?」
そう聞かれたアソラは、真っ赤に美しく咲く薔薇を見て、いまいちぴんと来ないのか「そうでしょうか?」と首を傾げた。
「もぉ、アソラったら女心が無いんだから」
小さな主人が口をとがらせアソラに文句を言う。アソラは何が駄目だったのか理解ができないまま、とりあえず「申し訳ございません」と謝罪する。温室の管理人であるステラはその二人のやり取りを聞いて静かに笑っていた。
晴れたある日の昼下がりに、令嬢と侍女が温室の戸を開けた。
花を見に来たと言う二人は自由に温室を歩き回り、あれが綺麗だ、可愛いとマリーが言い、アソラがただ静かに頷いている。
「ステラ」
彼女たちが温室に来てしばらく経った頃、マリーがステラを呼ぶ。
「マリー様、どうされました?」
軍手を取り、マリーのもとへ近づく。
「この花って」
目の前に咲く白い花のことを聞きたくて呼んだのだろうが、マリーがステラの方を振り返ると、小さく笑った。
その顔を見て、ステラは固まった。
「ステラったら、頬に土がついてるわよ」
マリーはハンカチを取り出し、ステラの頬を拭う。
「眼鏡にも土埃ついているから、しっかり拭くのよ。あなただって花に負けないくらい綺麗なんだから、身だしなみはきちんとしなきゃダメよ!」
ステラの視界が蜃気楼のように揺らめく。
見えるのは幼い頃のあの人。
やはり、この子はお嬢様の娘だということを、ステラは改めて思い知らされた。




