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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
令嬢のわがまま
70/120

05

 そこには白銀の世界が広がっていた。

 まだ誰の足跡もついていない、まっさらなままだ。

 アソラは喜んでマリーが雪に飛び込むと思っていたが、当の本人は飛び込むどころか一歩も先へ進もうとしない。

「マリー様?」

 不思議に思い尋ねると、マリーは眉を下げて、アソラを見た。

「これだけ綺麗だと、汚してしまうのがもったいなくて……」

 やってみたかった気持ちより、どうやら躊躇が勝ってしまったらしい。

「ですが、どちらにしろあと少しでガラたちに汚されますよ」

 アソラがそう言うと「……それも、そうね」とマリーは一歩右足を踏み出して、そして元の位置に戻った。

 雪には小さな足跡が残る。

 それを見たマリーはそこを指差し、アソラへ視線を向けた。

「アソラもこの隣に足跡つけてちょうだい」

 それをして何になるか分からないがアソラは先程マリーがしたように、右足を踏み出して、元の位置に戻る。

 その足跡を見て、マリーは「へぇ」と感嘆した。

「やっぱりアソラは私より足、大きいのね」

「それだけ背がありますからね」

「ふぅん」

 マリーはアソラの手を引く。

 そして広いところで倒れこんだ。

「ほら、アソラも」

 マリーが空を見上げながら言う。

 アソラは言われたまま、マリーと同じように倒れた。

 二人して雪を背に空を見上げる。

「初めて雪に倒れこんだけれど、感想は?」

 楽しげにマリーが尋ねる。

「背中が冷たいです」

 思っていた感想が返ってきてマリーは「ふふっ」と口角を上げた。

「でも」

 しかし侍女は言葉を途切れさせなかった。

「静かで、まるで世界に二人しかいないような、不思議な感じがします」

 マリーがアソラの方を見ると、彼女は空を見上げていた。

「また降ってきましたね」

 晴れていた空が重たい雲に覆われ、雪がぽつりぽつりと降って来る。

 マリーも空を見上げ、アソラにも聞こえない程の声で呟いた。

「……このまま二人で溶けてしまいたい」

 雪と一緒にアソラと溶けて、最期は同じ水になり、二人で大地へ還るのだ。

 それが、したい。

 その気持ちはきっと世間から見ればおかしいのだろう。

 相手は女で、元軍人で、さらに不吉とされる見た目の持ち主だ。

 それは、普通ではないと誰もが口を揃えて言うだろう。

 しかし、マリーには誰かが唱える普通という言葉は通用しない。

 彼女にとっての普通は、彼女の中で決められるものだからだ。世間が、いくらそれが普通ではないといえども、マリーにとってはそれが普通となる。

 だからマリーがアソラのことを愛しているのは普通のこと。

 彼女と共に生きていきたいと思うのも普通のこと。

 なにひとつ間違ってはいないことだった。

「ねぇ、アソラ」

「はい、なんでしょう」

 アソラがマリーを見ると、今まで見たことがない大人の女性の顔をしたマリーがいた。

「私、アソラが大好きよ」


 わがままで、いいの。


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