03
厨房に入って来たロンが「あ、やっぱり」とため息をついた。そして彼に、持って来た毛布をかける。
「料理長、寒いとすぐ寝るんです」
口調と眉は困った様子だったが、口元には優しい笑みが浮かんでいた。
「二人はどうしたんですか?」
ロンの大きな目が二人を映す。
「何か温かい飲み物いただけますか?」
アソラが尋ねると、彼は満面な笑みを浮かべた。
「あぁ、それならカボチャスープどうですか? 料理長が作ったものなんですけど、めっちゃうまいんですよ!」
マリーは普段は皿で頂くスープをカップに注いでもらい、それを両手で包みながら飲む。スプーンを使って飲むよりそれは何倍も美味しく感じた。
優しい甘さが口の中に広がる。
飲んだ体が芯から温まるのが分かる。
「……美味しい」
マリーが零すように呟くと、ロンはそれを聞き逃すことなく、自分が褒められたかのように目を輝かせた。
「美味しいですよね!? 料理長が作るものは何でも美味しくって、ほんとに神様みたいなんだ!」
成人男性の平均以上身長があるが、その体を丸く縮め小さくなり、神様のようだと褒め称えられた男は隅で寝ている。
マリーはロンの敬語が無くなっても気にすることなくスープを飲んでいる。それだけ尊敬する人のことを語る彼は無邪気で、子供のように可愛らしかった。
「俺、料理長と出会えて幸せなんだ」
アソラはロンが来た日を思い出した。屋敷に乗り込むようにやってきて、ここの料理長の下で働きたいと頭を下げて来た。それを見たリーシャは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、追い返すも追い返すもその場を動かないロンに根負けして、彼のもとで働くようになった。
「美味しく食べられるって世界で一番の贅沢だと思うんだ」
アソラはその言葉を聞いて、確かにそうかもしれない、と思った。
「だから料理長の横で一番最初に美味しい物を食べられる俺は、世界一幸せなんだ」
ロンが太陽のように笑うと、窓の外で一筋の光が差し込んだ。
その日差しがリーシャの顔を照らした。




