06
残されたジェイガンとサルコはただじっと奥から歩いて来る何者かの姿を凝視していた。そしてついに大きな窓から月明かりが差し込んだことにより、歩いてきた人物の姿を確認することができた。
「侍女、か?」
月明かりに照らされたのはアソラだった。
しかし月が雲に隠れたことでアソラの姿は暗闇に飲み込まれた。
サルコの目が細くなるが、すぐさま見開かれた。
「ジェイガン!」
サルコが叫んだのと同時にジェイガンの額目掛けて何かが飛んできた。
思わず腕で額をかばったジェイガンに痛みが走る。
何が起きたのかと腕を見ると、ナイフが突き刺さり、赤い血が滴っていた。
「ぐっ」
ジェイガンがそれを抜き取り、床に放り投げる。血で汚れたナイフは回転して壁にカンッとぶつかった。
そのときサルコが後ろへ飛んで行くのが見えた。
闇の中から現れたアソラが宙を舞い、サルコの顔面に己の膝をめり込ませてふっ飛ばしたのだ。
「くそが!」
重い拳が振り下ろされるが、アソラはそれを右によけ、拳をジェイガンの顔面にたたきつけた。ジェイガンが予想していた以上の痛みを受け、その拳を見る。
「女が、メリケンサックなんかつけてんのかよ」
鼻から血が噴き出る。
「普通に殴るだけでは力が足りないから」
アソラは表情も変えずに淡々と話す。
「あんたがこの屋敷の守り人なのか」
サルコはどうやら完全に気絶しているらしく、ぴくりとも動かない。
「私だけではないけれど、たまたまこの近くにいたのが私だっただけ」
「そうか。静かだったので誰もいないかと思った、ぜ?」
ジェイガンは時間を稼ごうと口を動かすが、それはできなくなった。
目が回り、立つことができなくなったジェイガンは床に伏せる。
「あ……、な?」
その横をアソラが通る。
「あと、二人か?」
二階を見上げてアソラは呟いた。その目は黒真珠のような輝きはなく、底のない深い穴のようにすべてを飲み込むようだった。
ジェイガンは霞む視界の隅にナイフを見つけた。
そのとき気が付いた。
あのナイフには毒がついていたということを。