07
朝日が昇ろうとも帰ってこない。
エリーは家を飛び出した。
「コンラッド!」
珍しく昼間に歩いているコンラッドの姿を見つけ、声をかける。
「お母さんを知らない?」
息を切らしているエリーの姿を見たコンラッドは何かあったのか、と拙い活舌で尋ねる。
「お母さんが帰ってこないの!」
今まで帰りが遅くなることはあった。しかし、太陽が真上に来るまで帰ってこないことは一度もなかった。
「なに、どうしたの?」
欠伸交じりな声に振り向くと、前に焼き菓子をくれた娼婦が家から顔を出していた。
「お母さんが帰ってこないの!」
「マリアが?」
母親の名前にエリーは首を縦に振る。
「最近、身なりのいい男に指名されてて、今朝そいつと街の方へ出て行く姿を見たよ」
エリーは街の方へ走り出した。
「エヒィ!?」
コンラッドが後ろで叫ぶのが聞こえたが、エリーは足を止めることなく駆ける。
綺麗な街へ行くには階段を駆け上がらねばならない。
汚い場所から綺麗な場所へ続く、まるで天界へ向かう階段。
エリーが階段を登りきると、身なりのいい人間たちが歩いている。
彼らはエリーを巨大な虫を見るかのような目で見た。
「さっさと帰れ!」
何かが飛んできて、エリーの頭に当たる。
白い殻が割れて中からどろりとした物が垂れてくるが、エリーにはそれが何か分からなった。大して痛くもなかったので、エリーは気にせず走り出す。
どれだけ走ったか。
綺麗な街並みがどこまでも続く。
しかしどれだけ綺麗でもエリーの心が動くことは無かった。
しかしある姿を見た瞬間、その心が跳ねた。
「お母さんっ!」




