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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
魔女の追憶 番外編
55/120

03

「こんばんは、エリー」

「こんばんは、先生」

 エリーが毎晩通う先は、いつも雨漏りに悩まされる一部屋の学び舎。

 今日も今日とて器があちこちに置かれている。

 先生と呼ばれた男、ユーリスは困ったように頭をかいた。

「今朝の雨、凄かったね」

 眠りにつこうとしたらポタポタと雫が落ちる音がした。

 そこから段々その音は間隔を狭くし、最後は怒涛の勢いで落ちて来た。

 エリーは布団という名の布を頭まで被り、この学び舎を思いつつ眠りについたのだ。

「雨漏りはいつものことなので、大丈夫です」

「屋根に板は打つんだけどねぇ」

 ははは、と笑うユーリス。

 エリーは知っていた。

 彼がとても不器用だということを。

 だからこそ、何度打ち付けても隙間が必ずある。

「誰かに頼んだ方がいいんじゃないですか」

 ユーリスは「そ、そうだな」と呟く。

「別に先生の頼みなら、あの人も聞いてくれますよ」

 エリーがそう言うといつも笑顔なユーリスの顔が、今にも泣きだしそうな子どものようになった。目元に皺ができるような歳なのに、いつまでも不器用な先生。

 それはここに生きるすべての人間が当てはまる。

 苦しんで足掻いて、それでも生きていく。

 器用に人を騙して、人を踏みつける人間はここにはいない。

 だから、エリーはここの場所が大好きだった。

「先生、今日もお願いします」

 エリーは持ってきた鞄から古い教材を取り出す。

 それは薬学の参考書だった。

「……ああ、今日も頑張ろうね」


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