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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
わがまま令嬢とわがまま子息
51/120

06

「こんのわがまま令嬢が!」

「はぁぁ!? あんたに言われたくはないわよ! このわがまま子息が!」

 二人のもとへ戻ると、遠くからでもわかる怒号が飛び交っていた。

 二人の姿を見てクゥロは苦笑していた。

「なにかあったのですか」

 アソラが尋ねるとクゥロは「いえ……」と言葉を濁しながらも事の経緯を説明してくれた。それを聞いたアソラは犬も食わない喧嘩の原因を思い、止めずに放置することに決め、クゥロに話しかけた。

「先程お手洗いには、迷わずに行かれましたか?」

「ええ、なんとか。ありがとうございました」

 花が咲くような優しい笑顔とお礼が返って来た。

 その優しげな雰囲気を身に纏う彼はどこから見ても好青年だった。

「アソラさんは、ここにはどれくらいお勤めですか?」

「ここに来たのは十年前です」

「それより前は何を?」

「ただ、普通に働いていました」

 嘘をついた。

 アソラが嘘をつくことは滅多にない。そして例えついたとしても、乏しい表情のせいで嘘だと見抜かれない。

 マリーと、真実を知るもの以外には見抜かれることはないのだ。

「そうなんですね。私も働いていました。全然面白くもなんともない、ただ仕方がなくやっているだけの仕事でしたけど」

 懐かしむように彼は目を細める。

「親友と一緒に働いていたんです」

 二人で罵り合いながらも、どこか楽しそうな主人をクゥロが見つめる。

「だから、どんなに辛いことでも二人で乗り越えることができました」

「そう、ですか」

 その視線に気づいたのかアンリがクゥロを見た。

 しかし彼は何を言うもなく、またマリーの方へ顔を逸らした。

「あぁ、とても楽しかったな……」

 その言葉はアソラに対して放たれた言葉ではなく、その頃を思い出してただ自然に言葉が漏れたようだった。

 それからしばらくして、オーランツ家は屋敷を出た。


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