表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
わがまま令嬢とわがまま子息
49/120

04

 しばらくすると言いたいことをすべて吐き出したのか、肩で息をしながら、二人は停戦状態に入った。

「お茶の支度ができています、どうぞ」

 頃合いを見計らってアソラが口を開く。

「そ、そうね」

「た、助かる」

 二人は父親同士が友人の為、幼い頃からの付き合いだった。

 顔を合わせば喧嘩をし、会う前は憂鬱で渋い顔になるが、しかしどういうわけか、お茶の時間だけは共に過ごすのが恒例だった。

 向かい合って二人でお菓子をつまみながら、静かにお茶を飲む。

「フランソワが子を産んだんだ」

「あら、良かったじゃない。何匹?」

「五匹」

 他愛ない世間話をする二人の表情は穏やかだった。

 通りかかったマーガレットがこそりと「あのお二人、絵になりますね」とアソラに囁いていくほどだ。

「あの、アソラさん、少しよろしいでしょうか」

 クゥロが主人たちに聞こえない声量でアソラに声をかける。

「大変申し訳ございませんが、お手洗いの場所をお伺いしてもよろしいですか?」

 少し恥ずかしいのか視線がアソラから外される。

「ええ、大丈夫ですよ」

 アソラはお手洗いの場所を口頭で告げる。クゥロは「助かりました」と柔らかく笑ってアンリの耳元で何かを告げる。

「ああ、行ってこい」

「失礼します」

 そして彼はこの場を去った。

 彼の背中が見えなくなるのを確認してマリーが口を開いた。

「彼はどこの人なの」

「知らん。ある日、親父が連れて来た」

 マリーは持っているカップを置いた。

「……前は何をしていたの?」

「知らん」

 アンリは焼き菓子を口に運ぶ。彼は甘いものが好きなようで、いつも遠慮なく食べて帰る。だからこそ彼が来る日には大量に仕入れておく。

「随分適当ね。あなたらしくない」

「お前だって同じだったろうが」

 アンリの目がマリーの後ろで立つアソラに向けられる。

 彼にはアソラが軍人であることを直接伝えたことは無い。しかし、アンリはアソラが何者で何をしてきたのか知っている様子だった。

「アソラは私を害したりしないわ」

「クゥロもしない」

 アンリはおかわりした紅茶に角砂糖を二つ入れた。

「そんなこと分からないじゃない。彼、会って一年も経ってないでしょう」

 前回オーランツ家が来たのがちょうど一年前。

 その際には違う執事を連れていた。

「一年経ってないが、分かる」

 ミルクを紅茶に注ぐ。

 そして焼き菓子を味わったあとに、それを飲んだ。

「分かるって、何が?」

 マリーが新緑の瞳の奥の真意を読み取るように見つめる。

 その視線を受けた子息は、笑った。

「あいつは良くも悪くも俺に興味が無いからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ