04
しばらくすると言いたいことをすべて吐き出したのか、肩で息をしながら、二人は停戦状態に入った。
「お茶の支度ができています、どうぞ」
頃合いを見計らってアソラが口を開く。
「そ、そうね」
「た、助かる」
二人は父親同士が友人の為、幼い頃からの付き合いだった。
顔を合わせば喧嘩をし、会う前は憂鬱で渋い顔になるが、しかしどういうわけか、お茶の時間だけは共に過ごすのが恒例だった。
向かい合って二人でお菓子をつまみながら、静かにお茶を飲む。
「フランソワが子を産んだんだ」
「あら、良かったじゃない。何匹?」
「五匹」
他愛ない世間話をする二人の表情は穏やかだった。
通りかかったマーガレットがこそりと「あのお二人、絵になりますね」とアソラに囁いていくほどだ。
「あの、アソラさん、少しよろしいでしょうか」
クゥロが主人たちに聞こえない声量でアソラに声をかける。
「大変申し訳ございませんが、お手洗いの場所をお伺いしてもよろしいですか?」
少し恥ずかしいのか視線がアソラから外される。
「ええ、大丈夫ですよ」
アソラはお手洗いの場所を口頭で告げる。クゥロは「助かりました」と柔らかく笑ってアンリの耳元で何かを告げる。
「ああ、行ってこい」
「失礼します」
そして彼はこの場を去った。
彼の背中が見えなくなるのを確認してマリーが口を開いた。
「彼はどこの人なの」
「知らん。ある日、親父が連れて来た」
マリーは持っているカップを置いた。
「……前は何をしていたの?」
「知らん」
アンリは焼き菓子を口に運ぶ。彼は甘いものが好きなようで、いつも遠慮なく食べて帰る。だからこそ彼が来る日には大量に仕入れておく。
「随分適当ね。あなたらしくない」
「お前だって同じだったろうが」
アンリの目がマリーの後ろで立つアソラに向けられる。
彼にはアソラが軍人であることを直接伝えたことは無い。しかし、アンリはアソラが何者で何をしてきたのか知っている様子だった。
「アソラは私を害したりしないわ」
「クゥロもしない」
アンリはおかわりした紅茶に角砂糖を二つ入れた。
「そんなこと分からないじゃない。彼、会って一年も経ってないでしょう」
前回オーランツ家が来たのがちょうど一年前。
その際には違う執事を連れていた。
「一年経ってないが、分かる」
ミルクを紅茶に注ぐ。
そして焼き菓子を味わったあとに、それを飲んだ。
「分かるって、何が?」
マリーが新緑の瞳の奥の真意を読み取るように見つめる。
その視線を受けた子息は、笑った。
「あいつは良くも悪くも俺に興味が無いからな」




