03
「よぉ、わがまま娘、元気だったか」
ヒールを履いたマリーより少し高い場所から、アンリはマリーを見下ろす。
「ごめんなさい、残念ながらあなたの顔を見たら気分が悪くなってしまいましたわ」
にっこりと柔らかな笑みを浮かべ、マリーは言う。
「体調がよくなるとともに態度も大きくなったと思っていたが、まだ不調だったのか。部屋で寝ていたらどうだ」
「あなたが帰ってくれれば、すぐに良くなるわ」
「聞いたか? 今来たばかりだというのに、もう帰れと言う。ほんとわがままなお嬢様だろう」
鼻で嗤って、後ろにいる執事に話しかける。
「アソラ、聞いた? ほんとに失礼な男だと思わない?」
マリーは眉間に皺を寄せて、後ろにいるアソラに話しかけた。
「お前、ほんとに可愛げが無いな」
「あら、さっき私をお嫁にもらえる男は幸せだと思うかって質問に、そうですねって答えたのはどこの誰だったかしら」
「社交辞令に決まってるだろ。お前みたいなの嫁になんかもらった時にはストレスで胃に穴が開く」
「そっくりそのままお返しするわ」
バチバチと火花を散らしながら二人は睨み合うが、先に話題を変えたのはマリーだった。
「ふんっ、ところでそちらの方は?」
マリーがアンリの背後に控えるクゥロを見る。
「俺の新しい執事だ」
「クゥロと申します」
温厚そうな顔立ちをした執事はお辞儀をした。
顔を上げる際に、アソラとクゥロの目が合う。彼はアソラを見て、にこりと笑った。
初見で怯えられず、驚かれないということが珍しいのでアソラは彼が違う国から来た人なのだろう、と思った。
「こんなわがまま子息を相手に、執事なんてとても大変なことね。かわいそうに」
嘆かわしいと言わんばかりにマリーがため息をつく。
「はぁ? お前の相手する方が大変だろうが。最初は黒い変な奴連れていると思ったが、ここまで来るとお前の相手がつとまる変な奴になるわ」
その言葉にマリーの眉が吊り上がる。
「はぁぁぁ!? アソラのこと変な奴とか思っているわけ!?」
「お前の相手できている時点で変な奴に決まってるだろうが!」
ぎゃんぎゃんと騒ぎ出す二人を執事侍女は無言で見守っていた。




