02
定刻通りに彼らはやって来た。
「やぁ、久しぶりだね。スティーブン」
ジョーダン家当主のマルリットが玄関で、客人であるスティーブン・オーランツを笑顔で迎え入れる。その両サイドに整列していた執事や侍女たちが一斉に頭を下げる。
「相変わらず仰々しいお出迎えだな、マルリット」
二人は握手を交わす。
スティーブンはマルリットの古い友人で、タントッラ王国で五本の指に入る資産家の一人だ。
「ご令嬢も奥方に似て美しくなったな」
マルリットの後ろに控えていたマリーに気づいたスティーブンが声をかける。
「お久しぶりでございます、スティーブン様」
恭しくマリーが頭を下げる。その姿はいつものわがまま令嬢ではなく、お淑やかな深窓の令嬢だった。その美しさにオーランツ家の使用人たちが感嘆の息を漏らす。
「このような美しいレディを嫁にもらえる男は幸せだと、お前もそうは思わんか?」
スティーブンは自分の背後にいた少年に視線を向ける。
後ろに控えていた少年は、新緑の瞳をマリーに向けて、「……ええ、そうですね」と言った。
そしてマルリットの前に歩み出る。
「お久しぶりです、マルリット様」
「あぁ、久しぶりだね、アンリ」
スティーブンの息子であるアンリはマルリットと握手を交わす。
「君も立派になったね」
「お褒めに預かり光栄です」
まだ幼さを残す顔立ちだが、父親のように将来精悍な男性になるだろうと思わせる雰囲気が彼にはあった。
「さて、立ち話もあれだから中へどうぞ」
マルリットがスティーブンの客間へ案内しようとすると、アンリが父親に声をかけた。
「父さん」
「ああ、お前は好きにしていろ。迷惑をかけるようなことはするなよ」
スティーブンはアンリの後ろに控えている執事に視線を向ける。
「クゥロ、ちゃんとアンリを見ておけ」
「かしこまりました」
クゥロが頭を下げたのを確認し、スティーブンはマルリットと共に客間へ消えて行った。
父親の姿が消え、また周りの使用人たちが各々の持ち場へ戻っていくのを確認してからアンリは口を開いた。




