04
それから三年の月日が経ち、マリーの体調はだいぶ良くなった。
「アソラァァッ」
「はい」
呼んだら返事がある。
それは三年間変わらない事実。
「今日は天気が良いわね。お花でも見に行こうかしら」
温室へ足を踏み入れると花の香りが鼻腔を擽り、色とりどりの花がマリーたちを出迎える。
「あら、マリー様、何かお花お求めですか?」
温室管理を任されているステラが奥から出て来た。
「いいえ、ただ見に来ただけよ」
「ふふっ、そうですか。お花たちも見てもらえればそれだけ美しく咲きますので、じっくり見て行ってくださいませ」
軍手を嵌めたステラはまた奥へ引っ込んでいった。
「いつ来ても素敵な場所ね、ここは」
マリーは花の香りを嗅いだり、眺めたりして温室を回った。
そして、ふとアソラの方へ向き直った。
「そういえば、アソラは好きな花とかあるの?」
急に問われて、アソラは「いえ特には」と答えたが、その答えに腑に落ちないような顔をした。
「なにかあるの?」
マリーに聞かれ、アソラはゆっくりと上を見上げた。
そこには温室の天井しかないのだが、アソラには何かが見えているような感じがした。
「アソラ?」
「桜」
見上げたままアソラが呟いた。
「桜? それはどんな花なの?」
聞いたことのない花の名にマリーはアソラに尋ねる。
「桃色の、ピンク色の花です」
「へぇ、それは綺麗な花なの?」
見上げたときと同じようにゆっくりとアソラの視線が上からマリーへ移った。
そのとき初めてマリーはアソラが微笑んでいる顔を見た。
「ええ、とても綺麗な花です」
そのときの表情をマリーは一生忘れないと思った。
その表情で初めてアソラの中に、自分以外の大事なものがあることを悟ったからだ。
五章完。




