03
調子が悪いときは昼だろうと夜だろうと眠りについているマリーは夜中に目を覚ますことが多々ある。
静かな真っ暗な部屋。
三歳のマリーにはこの部屋がとてつもなく恐ろしくなるときがある。
このまま死にそうなほど苦しくても、誰も来てはくれないのではないかという恐怖がマリーを襲う。
嫌だ、死にたくない、怖いと泣く夜も誰も来ない。
「お母様」
マリーの闇にかき消されてしまいそうな声が響く。
「お父様」
誰を呼んでも、いつも通り誰も来てくれない。
「ローザ、ハロルド」
マリーの目に涙が溜まる。
一通り思いつく名を呼んで、マリーは父親が連れて来た新しい侍女を思い出した。
確か、彼女の名は。
「アソラ」
「はい」
ただ思い出して呟いた名前に返事が来たマリーは、心臓が一瞬止まるほど驚いた。
暗闇から一人の侍女が現れた。
「お呼びでしょうか」
アソラがマリーのベッドの傍で膝をつく。
月明かりに照らされたアソラの目がマリーを見つめる。
「な、んで……?」
この部屋にいるのか、と続く前にアソラが口を開いた。
「この部屋で独りは寂しくありませんか?」
アソラは独り眠るマリーが寂しいかどうか聞いてから部屋を離れようと思い、彼女が起きるのを静かに待っていた。
ぽろっとマリーの目から大粒の涙が零れた。
とめどなく溢れる涙はマリーの頬を濡らす。
「っふ、さみしい、さみしいよぉ」
ハンカチがマリーの頬を伝う涙を拭う。その力強い摩擦で頬が痛いが、マリーは気にすることなく泣いた。
「やだ、やだ、独りは、やだぁっ」
「大丈夫です」
小さな手を大きな硬い手が握り締める。
「私がいます」
黒い瞳がマリーだけを見つめる。
「あなたは、独りじゃない」
マリーは体を起こす。
「アソラ」
「はい」
アソラと初めて向き合った。
「アソラ」
「はい」
呼んだら返事がある。
これが、こんなにも嬉しい。
「アソラッ」
小さな体がアソラにしがみついた。
「はい」
力加減が下手な侍女に抱きしめられたマリーは満足げに笑った。




