表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/120

03

 調子が悪いときは昼だろうと夜だろうと眠りについているマリーは夜中に目を覚ますことが多々ある。

 静かな真っ暗な部屋。

 三歳のマリーにはこの部屋がとてつもなく恐ろしくなるときがある。

 このまま死にそうなほど苦しくても、誰も来てはくれないのではないかという恐怖がマリーを襲う。

 嫌だ、死にたくない、怖いと泣く夜も誰も来ない。

「お母様」

 マリーの闇にかき消されてしまいそうな声が響く。

「お父様」

 誰を呼んでも、いつも通り誰も来てくれない。

「ローザ、ハロルド」

 マリーの目に涙が溜まる。

 一通り思いつく名を呼んで、マリーは父親が連れて来た新しい侍女を思い出した。

 確か、彼女の名は。

「アソラ」

「はい」

 ただ思い出して呟いた名前に返事が来たマリーは、心臓が一瞬止まるほど驚いた。

 暗闇から一人の侍女が現れた。

「お呼びでしょうか」

 アソラがマリーのベッドの傍で膝をつく。

 月明かりに照らされたアソラの目がマリーを見つめる。

「な、んで……?」

 この部屋にいるのか、と続く前にアソラが口を開いた。

「この部屋で独りは寂しくありませんか?」

 アソラは独り眠るマリーが寂しいかどうか聞いてから部屋を離れようと思い、彼女が起きるのを静かに待っていた。

 ぽろっとマリーの目から大粒の涙が零れた。

 とめどなく溢れる涙はマリーの頬を濡らす。

「っふ、さみしい、さみしいよぉ」

 ハンカチがマリーの頬を伝う涙を拭う。その力強い摩擦で頬が痛いが、マリーは気にすることなく泣いた。

「やだ、やだ、独りは、やだぁっ」

「大丈夫です」

 小さな手を大きな硬い手が握り締める。

「私がいます」

 黒い瞳がマリーだけを見つめる。

「あなたは、独りじゃない」

 マリーは体を起こす。

「アソラ」

「はい」

 アソラと初めて向き合った。

「アソラ」

「はい」

 呼んだら返事がある。

 これが、こんなにも嬉しい。

「アソラッ」

 小さな体がアソラにしがみついた。

「はい」

 力加減が下手な侍女に抱きしめられたマリーは満足げに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ