02
ひんやりと冷たい物が額に乗せられる。
その心地よい冷たさにマリーの意識は浮上するが、まだ万全ではなく、全身が鉛のように重い。
「……お母、様……」
瞼を開く元気はない。
傍にいるのがベルベッドのような気がして、母親を探すように左手が宙を彷徨う。
その幼き手を誰かが握った。
それは細く、柔らかな母親の手ではなかった。
硬く、骨ばったタコがいくつもある手。
握る力も母親のように柔らかい物を大事に包み込むような握り方ではなく、離さないという強い意志を持つ握り方だった。
その手が母親ではないと分かってもマリーは不快にならなかった。それどころか、その力強さに安心し、苦しむ表情から安堵の表情になり、また静かに眠った。
その表情の変化を見ていたアソラは小さな手から自分の手を離した。
丸い頬をした小さな令嬢の部屋を見渡し、二週間前までの自分の寝床を思い出した。雨風を辛うじて凌げる掘っ建て小屋の、寝返りも打てないスペースがアソラの寝床だった。隣には軍人たちが寒さや痛みに震えながら寝ていた。だからこそ隣に生者を感じることができた。
この時間はまだ鳥の鳴き声や使用人たちの足音、外からの騒音、それらの音が聞こえる。しかし夜になれば、音は聞こえなくなるだろう。
無音のこの部屋に、小さな主が独りか、と考えたアソラはあることを思いついた。




