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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
令嬢と侍女と客人
40/120

10

 マフィリーたちは数日この屋敷に泊まる。

 そしてまた各国へ飛び立つ。

 彼らが寝静まった頃、アソラは裏に生える桜の木を廊下から眺めていた。

 あの木がやって来たときのことを思い出す。

 確か、ここに勤めて三年目の頃。

 マリーが六歳の時に、彼女が急に桜の花が見たいと駄々をこねだした。

 どうしてそんなことを急に言い出したのか分からない。そもそも桜の花とはなんだ、とマルリットが尋ねると、彼女はピンクの花としか言わなかった。そこでボアズが呼ばれて、裏に植えることにした。

 大木が裏に植えられると、マリーはいつ咲くのか、まだ咲かないのか、明日には咲くか、とボアズに毎日詰め寄っていた。そして春を待て、と彼に言われ、春を待った。

 ある日、まだ太陽が昇りきっていない時間に、マリーが侍女部屋の戸を開け、飛び込んできた。

「見て! アソラ! 蕾がついたわ!」

 寝ぼけ眼のまま連れて行かれると小さな蕾がいっぱい付いていた。

「これが咲くのね! 楽しみね!」

 マリーが笑うとマリーの奥から朝日が差し込み、アソラは目を細めた。

 朝日が蕾を見上げるマリーを照らす。

 朝日に反射する髪と、煌めく瞳がとても眩しかった。

「綺麗」

 そう言うと、マリーは首を傾げた。

「まだ花は咲いてないわよ?」

 それから桜が開花した日は凄かった。

 一日中桜の下にいて動こうとしなかったので、体を冷やさないようにローザが外と屋敷を行ったり来たりしていた。

「アソラ、アソラ」

「はい」

「綺麗でしょう」

 アソラの膝を枕にして満足そうに微笑むマリー。

 はらりはらりと花びらが舞い、その頬に落ちる。

「ええ、とても綺麗ですね」

 指で花びらを摘まむと彼女は頬を染めた。


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