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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
わがまま令嬢とその侍女
4/120

04

 マリーはお腹に手を添えた。

「はぁ、お腹空いたわ」

 そろそろ夕食時かと思い、外を見ると世界は夕暮れに染まっていた。

 それが眩しくて目を細める。

「今日のご飯はなにかしら」

 マリーが声をかけてもアソラは外を向いたままだった。

「アソラ?」

 呼びかけても返事がない。

 まただ、と思ったマリーの瞳が暗く淀む。

 マリーが唇を噛むと、その美しい唇にじわりと血が滲む。それを舌で確認してからマリーはアソラの正面で叫んだ。

「アソラッ」

 その叫び声に体を震わせたアソラがマリーを見た。

 そして視線を唇に落とし、珍しく慌てた。

「どうしたんですか、血が出ていますよ」

 持っていたハンカチで優しく血を拭う。

「乾燥していましたか。保湿しましょう」

 血がついていることを気にもせずに、ハンカチを身に着けていたエプロンへしまう。

 皆は、アソラの表情は変わらないと言う。

 そんなことはない。

 実際にマリーの瞳に映る彼女は心配をしている。

 それが分かるのはアソラと長年いたマリーだけ、という事実がマリーを喜ばせている。

 マリーはぺろりと唇を舐めた。

「痛いですか?」

 その姿を見ているアソラが尋ねた。

「ううん、血の味がする」

「口をゆすぎに行きましょう」

 アソラがマリーに手を差し出す。

 マリーは飛びつくようにその手を握り締めた。

「ねぇ、アソラ」

「はい」

 マリーが見上げるとアソラの視線とぶつかった。

 マルリットに見せてもらった黒真珠のような、その美しい瞳が自分を見てくれることが嬉しかった。だから、あの昔を懐かしむような、昔を思い出しているその目がマリーは大っ嫌いだった。

「呼んだだけよ」


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