04
マリーはお腹に手を添えた。
「はぁ、お腹空いたわ」
そろそろ夕食時かと思い、外を見ると世界は夕暮れに染まっていた。
それが眩しくて目を細める。
「今日のご飯はなにかしら」
マリーが声をかけてもアソラは外を向いたままだった。
「アソラ?」
呼びかけても返事がない。
まただ、と思ったマリーの瞳が暗く淀む。
マリーが唇を噛むと、その美しい唇にじわりと血が滲む。それを舌で確認してからマリーはアソラの正面で叫んだ。
「アソラッ」
その叫び声に体を震わせたアソラがマリーを見た。
そして視線を唇に落とし、珍しく慌てた。
「どうしたんですか、血が出ていますよ」
持っていたハンカチで優しく血を拭う。
「乾燥していましたか。保湿しましょう」
血がついていることを気にもせずに、ハンカチを身に着けていたエプロンへしまう。
皆は、アソラの表情は変わらないと言う。
そんなことはない。
実際にマリーの瞳に映る彼女は心配をしている。
それが分かるのはアソラと長年いたマリーだけ、という事実がマリーを喜ばせている。
マリーはぺろりと唇を舐めた。
「痛いですか?」
その姿を見ているアソラが尋ねた。
「ううん、血の味がする」
「口をゆすぎに行きましょう」
アソラがマリーに手を差し出す。
マリーは飛びつくようにその手を握り締めた。
「ねぇ、アソラ」
「はい」
マリーが見上げるとアソラの視線とぶつかった。
マルリットに見せてもらった黒真珠のような、その美しい瞳が自分を見てくれることが嬉しかった。だから、あの昔を懐かしむような、昔を思い出しているその目がマリーは大っ嫌いだった。
「呼んだだけよ」