表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
令嬢と侍女と客人
39/120

09

「……どうしたの?」

 マリーが鋭い目でアソラを見る。 

「いえ……なんでもありません」

 少し青ざめたアソラの肩に手が添えられた。

「アソラさん、締め付け苦しいですか? そろそろ着替えましょう」

 手を添えたのは、マヒルだった。

 アソラは小さく頷いて、マヒルと共に更衣室へ向かった。

 しゅる、と帯が床に落ちる。

「ふぅ」

 締め付けが無くなり、大きく息が吸える。

 マリーもたまにコルセットをつける服を着ているが、苦しくないのだろうか、と思考していると膝をついたマヒルがアソラを見上げた。

「アソラさんは、桜、ご存じですか?」

 この屋敷の裏にも咲いているのでアソラは頷いた。

「私、桜が好きなんです……アソラさんもお好きですか?」

 マヒルはアソラの返事を待たず、着物を綺麗に畳みながら口を動かす。

「昔、桜の木がいっぱい生えている国に住んでいて」

 マヒルの髪に少し白髪が混じっていることにアソラは気づいた。

 若く見えるがアソラよりもずっと年上なのかもしれない。

「そこの国の人はみんな桜が好きでした」

 懐かしむような声だった。

「だから、あなたも好きかなって」

 アソラから簪が抜かれる。

 長い髪の毛がはらりと舞い落ち、それを掬い上げ団子に纏めながらアソラは聞いた。

「帰らないのですか?」

 彼女はもう存在しないと言った。

 それでも、その土地はまだあるはずだ。

 しかしマヒルは首を左右に振った。

「帰らない―――というより行かないかな」

 彼女は綺麗に笑った。


「愛すべき人が待っていてくれる場所、それが私の帰る場所ですから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ