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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
令嬢と侍女と客人
37/120

07

 しばらくすると、出て行ったマヒルが戻って来た。

「ただいま戻りました」

「あぁ、お帰……」

 マヒルに声をかけたマフィリーが言葉を失った。

 マフィリーの声が聞こえたマリーもそちらへ視線を向けて、息をのんだ。

「……アソラか?」

 声を出したのはマルリットだった。

「はい」

「どうでしょう、とてもお似合いでしょう」

 満足げに笑うマヒルの後ろには、先程の簪で髪を結いあげ、同じ黒色の着物を身に纏ったアソラの姿があった。黒地に大きな紅い花が描かれ、その同じ紅がアソラの唇を彩っていた。

 その姿にマリーは目を奪われた。

 普段から化粧をあまりしないアソラ。

 いつも同じ侍女服を着ているアソラ。

 まさか、あんなに紅が似合うなんて思っていなかった。

「……美しい」

 自分の言葉が口から漏れたかと思ったがそれは違った。

 マリーはその声の主を見上げた。

 それは今朝までアソラを醜いと言っていたロイドだった。

 ロイドは、先程刀に向けていた熱を持った視線をアソラにも向けている。

 途端にマリーを嫌な予感が襲う。

「ちょっ」

「アソラ、なんて美しいんだ!」

 マリーの言葉を遮り、目を輝かせたロイドが近づいてきたため、アソラは思わず仰け反る。

 いつも醜いものを見るように眉間に皺を寄せているくせに、とその変貌ぶりにアソラが当惑する。しかしロイドはお構いなしに、アソラの腰を自分に寄せる。

「あぁ、君がこんなに美しかったなんて、一体僕は今まで何を見て来たのだろう」

 大広間にいた全員が二人を見る。

 アソラは視界の端にハロルドを見つけた。

 目で、ロイドを投げ飛ばしてもよいか、と尋ねる。

 しかし、ハロルドは首を左右に振った。

「私は美しくない。気のせい」

 アソラはそう言い、その顔面を手で押し、離すよう訴えるがロイドは聞く耳を持たず、永遠にアソラがどう美しいか説いた。

 ロイドが初めてアソラを見たとき浮かんだのは、カラスだった。

 ゴミ捨て場でゴミを漁るカラス。

 なんて醜いのだろう、と思った。

 しかしその艶のある毛が印象的だった。

 その色と同じ目が自分を映している。

「あぁ、アソラ……」

 不満げな紅い唇に吸い込まれそうになる、その瞬間。

「アソラァァァァッ」

 思わず耳を塞ぐほどの叫びが轟いた。


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