07
しばらくすると、出て行ったマヒルが戻って来た。
「ただいま戻りました」
「あぁ、お帰……」
マヒルに声をかけたマフィリーが言葉を失った。
マフィリーの声が聞こえたマリーもそちらへ視線を向けて、息をのんだ。
「……アソラか?」
声を出したのはマルリットだった。
「はい」
「どうでしょう、とてもお似合いでしょう」
満足げに笑うマヒルの後ろには、先程の簪で髪を結いあげ、同じ黒色の着物を身に纏ったアソラの姿があった。黒地に大きな紅い花が描かれ、その同じ紅がアソラの唇を彩っていた。
その姿にマリーは目を奪われた。
普段から化粧をあまりしないアソラ。
いつも同じ侍女服を着ているアソラ。
まさか、あんなに紅が似合うなんて思っていなかった。
「……美しい」
自分の言葉が口から漏れたかと思ったがそれは違った。
マリーはその声の主を見上げた。
それは今朝までアソラを醜いと言っていたロイドだった。
ロイドは、先程刀に向けていた熱を持った視線をアソラにも向けている。
途端にマリーを嫌な予感が襲う。
「ちょっ」
「アソラ、なんて美しいんだ!」
マリーの言葉を遮り、目を輝かせたロイドが近づいてきたため、アソラは思わず仰け反る。
いつも醜いものを見るように眉間に皺を寄せているくせに、とその変貌ぶりにアソラが当惑する。しかしロイドはお構いなしに、アソラの腰を自分に寄せる。
「あぁ、君がこんなに美しかったなんて、一体僕は今まで何を見て来たのだろう」
大広間にいた全員が二人を見る。
アソラは視界の端にハロルドを見つけた。
目で、ロイドを投げ飛ばしてもよいか、と尋ねる。
しかし、ハロルドは首を左右に振った。
「私は美しくない。気のせい」
アソラはそう言い、その顔面を手で押し、離すよう訴えるがロイドは聞く耳を持たず、永遠にアソラがどう美しいか説いた。
ロイドが初めてアソラを見たとき浮かんだのは、カラスだった。
ゴミ捨て場でゴミを漁るカラス。
なんて醜いのだろう、と思った。
しかしその艶のある毛が印象的だった。
その色と同じ目が自分を映している。
「あぁ、アソラ……」
不満げな紅い唇に吸い込まれそうになる、その瞬間。
「アソラァァァァッ」
思わず耳を塞ぐほどの叫びが轟いた。




