03
「叔父様!」
マリーがジョーダン家に到着したマフィリーを歓迎する。
「おぉ、マリー! また綺麗になったな」
マフィリーは被っていた帽子をローザに手渡し、そのままマリーを持ち上げた。
「んもぅ、叔父様、私もう立派なレディですのよ」
困りつつも嬉しそうに言う姪を見て、マフィリーは目を細めて笑った。
その顔は兄であるマルリットとよく似ていた。
「そうだな、もうマリーは立派なレディだな」
マリーを下ろし、マフィリーは「嬉しいような寂しいような」と呟いた。
そして階段を降りて来た男を見た途端、真剣な顔つきになった。
「やぁ、よく来たね、マフィリー」
「兄さん」
二人は握手を交わす。そして離す際にマルリットはマフィリーの肩を抱き、「元気そうでよかった」と言った。
「……兄さんもお元気そうで何よりだ」
挨拶を交わす兄弟に外から大きな音が聞こえた。
「今日はいつもよりも量が多いんだ。皆に喜ばれる品があればいいのだけれど」
マルリットから体を離し、外へ出ようとすると外から声をかけてくる者がいた。
「マフィリー様」
「あぁ、マヒル」
マヒルと呼ばれた女性を見て、マルリットとマリーは笑顔を消し、執事侍女たちの何人かは青ざめた。
カラスを彷彿させる髪の色のマヒルは、彼らに視線を合わせることもなくマフィリーに荷物の搬送が終えたことを伝えた。
「ああ、ありがとう。マヒル」
穏やかな顔で返事をする弟に兄が声をかけた。
「マフィリー、彼女は?」
去年来たときにはいなかった女性。
一度見たら忘れることはない、その容姿。
「あぁ、彼女はマヒル。スラリス王国へ行ったときに雇ったんだ」
「初めまして、マヒルと申します」
彼女とマルリットの視線が合わない。いや、マルリットだけではない。この場にいる誰とも視線が合わない。
マルリットが「あぁ」と呟いてから柔らかい声音で尋ねた。
「失礼ですが、その目は昔から?」
「いえ、戦争で」
マヒルは小さく微笑みながら答えた。
「全く見えないわけではないのです。濃い色とかは見えたりしますし、ただ人を認識するのは難しいのでご迷惑をおかけします」
一礼をし、彼女は躊躇いなく外へ戻って行った。




