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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
令嬢と侍女と客人
32/120

02

「マリー様?」

 壺で視界を塞がれているアソラは、返答のない主人を見る為に体の向きを変えた。

 アソラがマリーを見ると、マリーは聖母のような優しい笑みを浮かべていた。

「忙しいのに呼んでごめんなさい、アソラ。お仕事頑張ってね」

 いつもなら喚き散らすマリーのその素直さに面食らったが、猫の手を借りたいほど忙しいのは事実だったので、アソラは一礼をし、その好意に甘えることにした。

 明日、いっぱいわがままを聞いてあげよう、と心に誓い、アソラは去っていく。

「はぁぁぁぁぁ」

 聖母のような笑みは消え去り、青筋を立てた鬼のような顔をし、怒気を巻き散らすように大きく息を吐き出す。

「おや、天使のような麗しいお顔が残念なことになっているね」

 横から声をかけられ、人を殺す勢いの目でその男を睨み上げる。

「今、私は機嫌が悪いの。痛い目みたくなければ、どっか行ってちょうだい。ロイド」

 執事のロイドは楽しそうに口角を上げた。

 その顔は、数多の女性を惹きつける美しさを持っていたがマリーには何も効果がない。寧ろ、マリーはロイドを嫌っていた。

「おや、お嬢様はご機嫌が斜めのようだ」

 舌打ちをし、マリーはロイドを無視し歩き出そうとするが、ロイドはそれを許さなかった。

「どうして、あんな醜いものを傍に置くんだい?」

 背を向けたままロイドに尋ねる。

「醜いものとは誰のことかしら? アソラのことを言っているわけじゃないわよね?」

 震える声は明らかに怒気を含んでいる。しかし、ロイドはそれがどうしたと言わんばかりに答える。

「そうだよ、アソラのことさ」

 マリーは振り返りロイドに近づく。

「あなた、よっぽど死にたいのね。今がお昼で、ここが屋敷でよかったわね」

 ロイドの革靴を自分の尖ったヒールで踏みつける。

 力強く踏みつけられ、常人ならば痛みで顔を顰めるがロイドは眉一つ動かさず、美しい顔をして楽しそうに笑っている。

「僕はただ綺麗なものが好きなだけだよ」

 マリーの小さな顎に指を滑らす。

「だから、美しいものに醜いものが近づくのが嫌なだけなんだ」

 桃色の変わった色の瞳がマリーを映す。

 その瞳に映った自分を見たマリーは足を浮かせて、ロイドから離れた。

「あなた、残念ね」

 ロイドは初めて楽しそうにしていた表情を崩した。

「なにがだい?」

 その顔を見て、マリーは天使のように笑った。

「アソラの美しさが分からないなんて」


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