03
マリーはアソラをすぐに呼ぶ。
呼べば絶対来てくれるという自信が彼女にはある。
「ほら、来た」
アソラの足音が聞こえて振り返ると、いつものように表情を変えないアソラがいた。
「なんで走らないの。私が呼んでいるのよ?」
頬を膨らませて言うと、アソラは首を傾げた。
「お急ぎの用件ではないのでしょう」
マリーの眉間に皺が寄る。
「どうしてわかるの?」
「呼ばれる声でわかりますよ」
その言葉でマリーは目を輝かせた。
「そんなことが分かるの!?」
「はい」
マリーは嬉しくなってアソラの周りを走り回った。
「アソラは私のことなんでもわかるのねっ」
「いや、なんでもかは分かりかねますが」
その声は聞こえなかったようで、マリーは頬を紅潮させて飛び跳ねていた。
「マリー様、あまり飛び跳ねますと足をくじかれてしまいますよ」
ヒールの高い靴を履いていたマリーを心配し、声をかけると、マリーはぴたりと飛び跳ねるのをやめた。そしてアソラの前に立った。
しかし何も言うことはなく、ただアソラの顔を見上げている。
「ところで、ご用件は?」
しびれを切らしてアソラが尋ねると、マリーは首を左右に振った。
その際に柔らかい髪の毛がふわりと揺れる。
「ないわ」
「……用は無いと?」
「ええ、そうよ。ただ呼びたかっただけよ」
ただ呼びたいだけで、あれだけの声を吐き出すのは疲れないのだろうか。
「だって、アソラは呼んだら絶対来てくれるでしょう?」
その表情は自信に満ち溢れていた。
「それが仕事ですから」
人によっては仕方がなく来ている、ともとれる言葉を聞き、マリーは満足そうに頷いた。
「そうよ。アソラは私に呼ばれたら来る。それが、仕事なの」