07
アソラはマーガレットの持つ紙袋に目をやって、手に持っていた林檎をその中に入れた。
そして男へ視線を向けた。
「あ? なんだよ、お前」
「離してもらえませんか?」
再度同じことを言っても男はマーガレットを掴む腕を離そうとはしない。
アソラは仕方がないとため息をつく。
そして男の顔面目掛けて拳を叩きつけた。
もちろん狙うは鼻だ。
「ぐぁっ」
鼻血が飛び散る。
男はマーガレットから手を離し、自分の顔を覆った。
アソラはその瞬間にマーガレットを自分の後ろへ下がらせる。
「てめぇ、何してんだ!」
左側にいた男が殴りかかってくる。
アソラはその腕と服を掴み、男を投げ飛ばす。その先には鼻血で涙を流す男がいて、二人まとめて地面に転がり込んだ。
アソラは立ち尽くしている最後の一人へ視線を向ける。
男はアソラと地面に倒れこむ仲間の男二人を交互に見て、「ひぇっ」と悲鳴を上げて路地裏へ消えていった。
投げ飛ばされた男がふらついた足で起き上がり、鼻血を垂らす男に肩を貸す。
「行くぞ……」
引きずられるように路地裏へ行く際に、鼻血を垂らす男が殺気に満ちた目でアソラとマーガレットを見た。その目を見たマーガレットは恐怖に震え、アソラの背中にしがみついた。
「テメェら、覚えてろ……次見つけたときは絶対、絶対、殺してやるっ! 泣きわめいたって許してやらねぇ……ぶっ殺してやるからな!」
男たちは路地裏へ消えていった。
弱々しい振動が背中に伝わる。
アソラの背中でマーガレットが震えていることが簡単に分かった。
「もう大丈夫、一回離れて」
アソラがそう言うと、マーガレットは言う通り離れた。振り返るとマーガレットは白い顔で、歯をカチカチ鳴らし、紙袋を持つその手は誰が見ても分かるくらい震えていた。まるで雪山に遭難したような、その震え具合にアソラはマーガレットを前から抱きしめた。
すっぽりとアソラに収まる彼女はそのぬくもりと、上から何度も降ってくる「大丈夫」という声に徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「あ、あのアソラさん、もう大丈夫です……」
アソラはマーガレットから体を離し、顔を覗き込む。
白い顔には血の気が戻り、頬が紅潮していた。
「怖かったでしょう」
アソラの手がマーガレットの頬を撫でる。
「あ、怖かったですけど、でも……」
「でも?」
「アソラさんが、守ってくれたので、もう大丈夫です」
ふふっと笑うマーガレットを見て、アソラは初めて彼女が笑うところを見たな、と思った。いつも怯えた顔をされていたので、少し安心した。
「あの」
マーガレットがアソラを見上げた。
初めて視線が合った。
「今まで避けていてごめんなさい。アソラさんは何も悪くないのに、私とてもひどいことをしていた……本当にごめんなさい」
また泣き出しそうな彼女の頭を撫でる。
「今からは避けないでくれる?」
「もちろんです!」
「ありがとう」
優しく微笑んだアソラを見たマーガレットは顔をさらに赤くした。




