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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
令嬢と侍女と新人
27/120

07

 アソラはマーガレットの持つ紙袋に目をやって、手に持っていた林檎をその中に入れた。

 そして男へ視線を向けた。

「あ? なんだよ、お前」

「離してもらえませんか?」

 再度同じことを言っても男はマーガレットを掴む腕を離そうとはしない。

 アソラは仕方がないとため息をつく。

 そして男の顔面目掛けて拳を叩きつけた。

 もちろん狙うは鼻だ。

「ぐぁっ」

 鼻血が飛び散る。

 男はマーガレットから手を離し、自分の顔を覆った。

 アソラはその瞬間にマーガレットを自分の後ろへ下がらせる。

「てめぇ、何してんだ!」

 左側にいた男が殴りかかってくる。

 アソラはその腕と服を掴み、男を投げ飛ばす。その先には鼻血で涙を流す男がいて、二人まとめて地面に転がり込んだ。

 アソラは立ち尽くしている最後の一人へ視線を向ける。

 男はアソラと地面に倒れこむ仲間の男二人を交互に見て、「ひぇっ」と悲鳴を上げて路地裏へ消えていった。

 投げ飛ばされた男がふらついた足で起き上がり、鼻血を垂らす男に肩を貸す。

「行くぞ……」

 引きずられるように路地裏へ行く際に、鼻血を垂らす男が殺気に満ちた目でアソラとマーガレットを見た。その目を見たマーガレットは恐怖に震え、アソラの背中にしがみついた。

「テメェら、覚えてろ……次見つけたときは絶対、絶対、殺してやるっ! 泣きわめいたって許してやらねぇ……ぶっ殺してやるからな!」

 男たちは路地裏へ消えていった。

 弱々しい振動が背中に伝わる。

 アソラの背中でマーガレットが震えていることが簡単に分かった。

「もう大丈夫、一回離れて」

 アソラがそう言うと、マーガレットは言う通り離れた。振り返るとマーガレットは白い顔で、歯をカチカチ鳴らし、紙袋を持つその手は誰が見ても分かるくらい震えていた。まるで雪山に遭難したような、その震え具合にアソラはマーガレットを前から抱きしめた。

 すっぽりとアソラに収まる彼女はそのぬくもりと、上から何度も降ってくる「大丈夫」という声に徐々に落ち着きを取り戻してきた。

「あ、あのアソラさん、もう大丈夫です……」

 アソラはマーガレットから体を離し、顔を覗き込む。

 白い顔には血の気が戻り、頬が紅潮していた。

「怖かったでしょう」

 アソラの手がマーガレットの頬を撫でる。

「あ、怖かったですけど、でも……」

「でも?」

「アソラさんが、守ってくれたので、もう大丈夫です」

 ふふっと笑うマーガレットを見て、アソラは初めて彼女が笑うところを見たな、と思った。いつも怯えた顔をされていたので、少し安心した。

「あの」

 マーガレットがアソラを見上げた。

 初めて視線が合った。

「今まで避けていてごめんなさい。アソラさんは何も悪くないのに、私とてもひどいことをしていた……本当にごめんなさい」

 また泣き出しそうな彼女の頭を撫でる。

「今からは避けないでくれる?」

「もちろんです!」

「ありがとう」

 優しく微笑んだアソラを見たマーガレットは顔をさらに赤くした。


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