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「本当は髪の毛を下ろしてほしいのに」
昔を思い出していたアソラに、あのときより大きくなったマリーが声をかける。
「それは致しかねます。髪をまとめるのは侍女の決まりですので」
アソラもエリーも、髪が長い侍女は髪を後ろに団子のようにまとめている。
マリーは自分の隣にしゃがむように、アソラに指で指示する。
言われた通りにアソラはマリーの横に膝まずく。
マリーの白魚のような指がアソラの髪へ伸び、まとめているピンを抜く。
黒い髪がはらはらとアソラの肩や背に落ちる。その一束を掬い、マリーはその美しさに目を細めた。他の色に染まることがないその色はまるでアソラのようで、アソラはマリーが誰であっても、アソラとして接してくれる。
「欲深い悪魔なのは誰なのかしらね」
欲の無い瞳がマリーを見る。
「何か仰いましたか?」
「いえ、何にも」
「髪の毛、縛りなおしても?」
「まだ、ダメよ!」
ローザに見られないことを祈りつつ、アソラはマリーの好きなようにさせた。




