01
「さて、本日からこの四名の皆さんにはジョーダン家の執事、侍女として働いていただきます。ではまず注意点のことから説明していき」
「アソラァッ」
侍女長ローザの声を遮ってマリーの声が屋敷全体に響き渡る。
ローザの前にいる四人の若い男女は初めて聞くその声量に体を震わせ驚き、出鼻をくじかれたローザはため息をつきたくなった。
「……あの声はご令嬢マリー様です。度々よく聞こえますが、気にしないように」
「アソラァァァッ」
ローザの言葉のすぐ後にまた響き渡った。
四人はローザの言葉に了承の意をこめて、頷いた。
「あの」
その中の一人が手を挙げる。
ローザが「どうぞ」と促すと青年は「アソラさんって誰ですか?」と尋ねた。
「あぁ」
ローザがそう言った瞬間、ローザの後ろを黒髪の侍女が通り過ぎた。
その姿を見た四人は青ざめたり、一歩後ろに後退ったり、目を丸くしたりなどと様々な表情を見せた。
その顔を見たローザは今度こそ小さくため息をついた。
「彼女がアソラです。ジョーダン家の侍女です」
その言葉に「え!?」と声が上がる。
「……ご令嬢はあの人を呼んでいるのですか?」
理解ができない、と顔が訴えている。
「アソラはマリー様のお気に入りです」
嘘偽りもない事実。
「だからこそ」
ローザの声が低くなった。
途端四人の背筋がピンと伸びる。
「決して、決して、マリー様の前でアソラの悪口など言わないように。いいですか、絶対ですよ。自分を大事にしているのならば、無駄なことは言わないのが賢明です」
四人は完全に青ざめている。
それを見たローザは安心させるように小さく笑う。
「大丈夫です。アソラは人に害をなす存在ではありません」
その笑みを見て四人のピンと張りつめていた緊張が解けた。
「ですが、先程の忠告は忘れないようにしてください」
窓際にいた一番小柄な少女は、外へ視線を移す。
そこには天使のような美しい金色の髪をした少女と、光をすべて吸収する黒い髪の女性が並んで歩いていた。
「マーガレットさん、どうかされましたか?」
ローザに声をかけられ、マーガレットは窓から視線を戻し、「いえっ」と叫ぶ。
「では、お屋敷を案内しましょう」
そう言い、ローザを先頭に見習い執事侍女たちは歩き出す。
マーガレットはもう一度外をちらりと見る。
そこにはもう誰もいなかった。




