02
事の顛末をこの屋敷の主人の奥方、ベルベット・ジョーダンに伝えると「いいのよ」と笑った。
「私も楽しみにしていたけれど、あの子が誰かの為に何かしたことが私は嬉しいわ」
天使の母親は聖女なのだろうか。
怒ることもなく、ベルベッドはその行いを逆に褒めた。
「病気がちで弱くって、ずっと心配していたから、ああやって元気に動き回ってくれて本当に私は……」
当時を思い出したのか、涙を浮かべながら彼女は言った。
「アソラ」
「はい」
優しい眼差しをアソラは身に受ける。
「あなたが来てから本当にあの子は楽しそうで、楽しそうで。本当にありがとうね」
「いえ……それが、仕事ですので」
ベルベッドが微笑むと同時に。
「アソラァァァッ!」
またしてもアソラを呼ぶマリーの声が響いた。
「あら、あの子ったらもうあなたを呼んでいる」
あの雷鳴のような声で呼ばれたら屋敷のどこにいても聞こえてしまう。
「それでは失礼いたします」
行かざるを得ないアソラは一礼して、退室した。
入れ替わるように侍女長のローザが入ってきた。
「奥様、お茶はいかがですか」
「あら、ありがとう」
ローザは高い茶器を丁寧に迅速に扱いながら、紅茶を注いだ。
「アソラが来たようですが」
テーブルに紅茶を注いだカップを置き、尋ねる。
「ええ。マリーがね、私が楽しみにしていた花を刈り取ってアソラにあげたことを報告しに来てくれたの」
紅茶の香りを楽しみ、それから口に含む。
その上品な姿に憧れる女性は後を絶たない。
「左様ですか」
「ふふっ、ローザったらアソラがまだ気に入らないの?」
「……いえ」
ベルベッドは「そうね」と言い、カップを置いた。
アソラは特殊なのだ。
彼女がどうやって生きてきたのか詳しく知らない。
旦那であるマルリットがある日、連れてきたのだ。
彼女が来てもう十年。
「大丈夫よ。アソラはいい子よ」
マリーが懐いているのが、その証拠だ。