04
部屋を出て、左を見ると聞き耳を立てるように壁に張り付いた不審者――ではなく執事のガラがいた。
無言で通り過ぎようと思ったが、ハロルドの言葉があるので仕方がなく声をかけた。
「ガラ、あなたに話がある」
アソラよりもいくつか若いガラは何もなかったかのようにネクタイを締めなおし、「なんだ?」と高圧的な態度をとる。
彼が偉そうな態度をとるのはいつものことだったので、アソラは気にすることもなく、先程ハロルドから聞いた話を彼に伝える。
それを聞いたガラは顎に手をあて、しばし考えている様子だった。
しかしアソラは分かっていた。
「そうか。ならば俺は不審者を見つけたら、殴り飛ばせば良いのだろう!」
ガラが大したことを考えてはいないことを、残念ながらアソラは分かってしまっていたのだ。
ガラは細身で高身長のハロルドとは違い、筋肉質な大きな身体をしている。その鍛え抜かれた巨体で敵を薙ぎ払うその姿は鬼神の如く、元軍人のアソラでさえも真正面から挑みたくはないものだった。
だが、残念なことに彼は考えることがあまり得意ではなく、複雑な話も簡単に考えてしまうので、よくローザが頭を抱えている。しかし結局のところ、その簡単な結論が間違いではないので、今回の件もアソラは「それでいい」と答えた。
「では、そのように宜しく頼む」
そう言い、次の場所へ移動しようとすると、ガラがその大きな身体でアソラの行く先を遮った。
「なに?」
怪訝そうな顔で見上げるとガラは頬をぽりぽりとかきながら、視線をそらしながら言った。
「そ、そのだな、ハロ、いや執事長はお元気でいらっしゃったか?」
「は?」
低い声が出てしまった。
そしてアソラは思い出した。
「私には元気そうに見えたけど、気になるなら自分で覗いてみては?」
そう言うと、恥ずかしそうに彼は手を左右に振った。
「いやいやいや、俺ごときが執事長のお手を煩わせるなんて! あぁ、でも最近お休みをとっている姿を見かけない。食事を三食きちんと召し上がっている姿も見かけない、ご趣味である壺屋巡りも全然されていない。あぁぁぁ、とても心配だぁぁ」
ガラはハロルドのことを非常に敬愛しており、ときたまその愛が気持ち悪い。
その愛故にハロルドのことをだいたいは知っており、ハロルドを見つけたいときにはガラに尋ねると分かる、とまでこの屋敷では言われている。
「あぁ、お会いしたい……しかし、邪魔をするわけにはいかない……はぁ、苦しい」
ガラがハロルドの心配をし、騒いでいる間にアソラは足音を立てずに去って行った。




