01
「アソラァァッ」
今日も今日とてマリーの絶叫とも呼べる声が響く。
しかし、今日はいつもと違う。
「はい、なんでしょう」
今日は既にアソラがマリーの目の前にいるのだ。
二人がいる場所は屋敷の門前。
マリーは運転手のトーマスに羽交い絞めにされて、自家用車に連れ込まれようとしているのだが、子どもの脚力とは思えない力で踏ん張って耐えていた。
「マリー様っ、行きますよ! スクールに遅れてしまいます!」
中年のトーマスは毎週恒例のこの力仕事の為に筋肉をつけようと日々いそしんでいるのだが、いつまで経ってもマリーの力強さに快勝することはできない。
「嫌よ! どうして私がスクールなんか行かなくちゃならないの!?」
「マリー様、毎週申しておりますが、本来なら毎日通うところをマリー様が嫌がられて、その結果、一週間に一日は必ず通うと約束されたからではありませんか」
アソラが正論を言うと、頬を膨らましてマリーはさらに暴れ出した。
「だったら今日じゃなくても良いじゃない!」
「では、明日のピクニックはお止めになられますか?」
マリーは一昨日、花が綺麗に咲いている丘の情報を侍女の一人から聞き、そこへピクニックに出かけたいと言い出した。アソラが昼食の用意をすると言うとブリオッシュを焼いてくれと彼女は頼んだ。
アソラはその話を無しにして、スクールに行くのかと問う。
「うっ」
マリーが言葉に詰まり、下を向く。
そして思いっきり顔を上げて叫んだ。
「あぁぁっ! もうっ、行くわよ! 行けばいいんでしょう!?」
トーマスの腕を振り払いマリーは車に乗り込む。
既に疲れ果てたトーマスが扉を閉めて運転席に乗り込む。
「アソラ」
乗った瞬間に窓を開け、マリーがアソラを呼ぶ。
「はい」
「……言うことあるでしょ」
マリーはじろりとアソラを見上げる。その視線に気づいたアソラは毎週の言葉を口にする。
「行ってらっしゃいませ、マリー様」
「ええ、行ってくるわ。アソラ」
満足したのか天使のような微笑みを浮かべたマリーを、アソラは見送った。




