おまけ:喜び
眠い、とマリーは開かねばならぬ瞼を閉じたまま思った。
早く起きることを得意としないマリーにとって、早起きという行為はとても苦痛なことだった。
それでも、起きることは喜びでもあった。
遠くから足音が聞こえる。
きっと彼女は足音を立てて歩くことはしなかったのだろうが、マリーの部屋へ来るときは足音を響かせる。
マリーはその音を聞くといつも布団を頭まで引っ張り上げ、隠してしまう。そして寝ぼけたまま口角を上げて、彼女が部屋に入ってくるのを待つ。
ノックが響き、そのあとに「おはようございます」と声が響く。
マリーが世界で一番好きな声が。
当然起きることのないマリーに近寄り、彼女は優しくその小さな体を揺する。
「マリー様、朝ですよ」
ゆっくりと開く瞼。
それと同時に頭にかぶさっていた布団が剝がされ、光がマリーに注ぎ込んでくる。
眩しく細められた目に映るのは愛しい人。
「おはようございます」
柔らかく微笑むアソラにマリーは「おはよう」と言った。
目が覚めて一番最初に見るのが、世界で一番大好きな人だなんて、なんて幸せな一日なのでしょう。
喜びで、胸が満たされるわ。




