117/120
09
眠った姿のアソラを見たのは生まれた初めてだとマリーは思った。
いつも眠った姿を見せるのは自分だった。
いつ目覚めるのか分からない人を見るのが、こんなにも苦しいものだということも初めて知った。
一日、一時間、一分、一秒がこんなにも長い。
説明が下手な教師の退屈な授業よりも長い。
マリーはアソラの胸に耳を当てた。
そこからは今にも消えそうな音が聞こえた。
この音が聞こえる限り、アソラは死ぬことはない。
死んだように眠るアソラが生きている唯一の証。
「ねぇ、アソラ」
呼びかけても返事はない。
「あなたにはいつもこんな思いをさせていたのね」
目を開けると、いつもそこにはアソラがいた。霞む視界の中にいる侍女はマリーを見て、どれだけ安堵した顔をしていたのか。
「ごめんなさい」
耳を当てたままマリーは涙をこぼした。
「もう、あなたを苦しませたりしないわ」
だから、お願いよ。
目を開けて。
アソラ。




