06
「ずるいわ!」
「え?」
何がずるいのかアソラは分かっているのだろう。同情するような目でニウを見ている。
「ずるい、ずるい、ずるいわ!」
「え、えぇ……」
胸元を掴まれ体を揺さぶられ、ニウは何が起きているのか分からないまま、されるがままになっていた。
「んもぉぉ、私もアソラと一緒に木に登りたいのに!」
頬を膨らませ、地団駄を踏む勢いの主人はようやくニウを解放した。
少しよれたシャツを直しながら、ニウはマーガレットとガラの言葉を思い出した。
「「ただ」」
「アソラのこととなると人が変わるからな」
「アソラさんが関わると、ちょっと……ね」
悔しさを滲ませた視線を注がれ、ニウは視線を下に向けた。
「まず、靴が駄目だと思います」
アソラがぴくりと反応するが、二人はそれに気が付かず、話を続けた。
「靴?」
マリーが高級な皮で作られ、輝く宝石で彩られた自分の靴を見る。
「そんな踵の高い靴では木に登ることはできません」
「そうなの?」
マリーは躊躇いもせず、靴を脱いでそこら辺に放り投げた。
ローザが見たら泡吹いて倒れそうな光景だ。
「これでいいかしら?」
「靴下も脱いで裸足の方が滑りにくいですけど、足が柔らかいと刺などが刺さったりするので、おすすめはしません」
ニウがそう言っているのだが、マリーは後半の部分を聞いていないのか靴下を脱いだ。
白い綺麗な足が大地を踏みしめている。
「アソラと一緒に木に登れるのなら、刺なんて些細なことよ」
目を丸くしていたニウだったが、この一言でマリー・ジョーダンという一人の人間がどういう人間なのか悟り、初めてマリーの前で笑った。
「それなら着替えてきた方がいいです。そのスカートの丈では登るの大変です」
ふむ、と考えたマリーは自分の髪のリボンをほどき、スカートをたくし上げ、真横で一つに縛り上げた。
「これで足元は邪魔にならないわ!」
「そ、そういう問題じゃありません!!」
真っ赤になって顔を覆い隠すニウにマリーは「大丈夫よ、こんなもの見られたところでどうってことないわ」と中に履いていた白い膝丈まである下着を指差す。
「そうは言われてもぉ」
指の隙間からアソラを見るが、アソラは特に何を言うこともなくマリーの背後に立ったままだった。
少しだけ楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。




