02
トレイに割ったら一生涯をかけても弁償できなさそうな茶器と茶菓子を載せ、ニウは裏庭に向かう。
どうやら裏庭にある大きな木の下にマリーはいるらしい。
「桜って見たことあるか?」
マーガレットと同期で、同室のキシュが尋ねて来た。
ニウは首を左右に振る。
「ほら、あそこに大きな木が見えるだろう」
窓を拭いている手を止め、二人は外を眺めた。
「あれが桜の木なんだ」
「桜って、果実ですか?」
「うーん、残念ながら食べ物じゃないんだなぁ」
幼少期から木に登って果実を採っていたニウは、自分の知らない果実なのかと淡い期待を抱いたがそれはすぐに消えた。明らかに肩を落としたニウを見たキシュは慌てたように「でもでも」と声を荒げた。
「果実は成らなくても、綺麗な花が咲くんだ」
「花、ですか?」
花では腹は満たされない、という心の声が聞こえたのかキシュは眉を下げた。
「確かに花で何かがどうなるってわけじゃないけどさ。それでも」
そう言い、視線を桜の木に向けた。
その目は今の寒々とした裸の木を見てはいなかった。
きっとニウが知らない桜の花が咲いた姿を見ているのだろう。
「それでも、一度見たら一生忘れられない大切な思い出になるよ」
そのあと桜が咲いたという話は聞いていた。
もうすぐ満開という話も聞いていた。
しかし、日々の業務を覚える忙しさと、調度品を壊してはいけないというプレッシャーからそれ以降桜の木を見ることはなかった。
こんな高い物早く置いて帰ろう、そう心に決めて、ニウは裏庭に着く。




