01
「アソラァァァァッ」
まだ寒さの残る頃、ジョーダン家の執事となったニウが小さく飛び上がった。
「ふふっ」
頬にそばかすのある侍女が笑うので、ニウは恥ずかしそうに「すみません」とばつが悪そうに言った。
「ううん、いいのよ。慣れるまではびっくりしちゃうもんね」
この屋敷で働き始めて二年の月日が流れたマーガレットは、逆にあの声が聞こえないと寂しく感じるほどになっていた。
「ニウ」
背後から声を掛けられニウは振り返る。
「ガラさん」
「悪いが、仕事を頼みたい……あ」
ニウに近づいたガラはあることに気が付いて、五歩ほど下がった。
初めてガラとニウが出会ったとき、ニウは相手の目を見て話す少年だった為、目一杯首を上げていた。ガラの前にハロルドに会い、そのあとロイドに会い、そのあともニウよりも背の高いデューラなどに会ったせいで彼の首は一日で痛みを覚えてしまった。
「……気を遣わせてしまってすみません」
「気にするな、これから大きくなる」
少しだけ目線の高いマーガレットが「ここの人たちは何故か皆、背が高いもの」と困ったように笑った。
早く背が伸びるように頑張ろうとニウは決意した。
「ところで、ガラさん、僕は何をすれば?」
「あぁ、軽食をマリー様のところに持って行って欲しいんだ」
ニウの背筋がピンと伸びる。
仕事で家を空けているマルリット、そして実家に帰っているベルベッド、両者が不在の今この屋敷の主はマリーだった。
ニウは一度ローザに連れられ挨拶をしただけで、それ以降接点はなかった。いつもその声を聞き、たまに光り輝く髪を遠くから眺めるだけだった。
緊張した面持ちの新入りを見たガラとマーガレットは小さく笑った。
「別に粗相をしたところで怒ったりする方ではない」
「マリー様は優しいお方だから大丈夫よ」
ニウが安堵したその瞬間。
「「ただ」」
二人が同時に口を開いた。




