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顔をゆっくりと上げるとそこには、死の香りを嗅ぎつけてくる死神の姿があった。
「来たの」
彼女は頷いた。
「今度は誰を連れて行くの」
彼女はクゥロを指差した。
アソラはそれを見て、唇を噛んだ。
死神は優しく微笑んでいる。
その顔を見て、アソラは静かに問うた。
「どうして……どうして私を連れて行かないの、お母さん」
初めて死神を見たときから、次は自分だとずっと待っていた。
母が自分を救済してくれるのだと、この世界から連れ出してくれるのだと、そう思って待っていたのに、いつも連れ出すのは別の人ばかりだった。
「私は、いらない子なの?」
母の顔をした死神は静かにアソラの前に立っていた。
「人を沢山殺めたから、お母さんとはいられないの?」
アソラが顔を上げると死神は両手でアソラの頬を包み込んだ。
死神を映す黒い瞳とアソラを映す黒い瞳が交わる。
その瞬間、アソラの遠い記憶が蘇った。
幼い頃、こうして母と見つめ合ったことがあった。そのとき、母は言った。
『大好きよ、アソラ』
アソラの目から涙が零れる。
『アソラ、もしお母さんがいなくなってもアソラを大好きって言ってくれる人が必ず現れるわ。もしその人が現れたら、アソラも大好きってちゃんと言うのよ』
「お母、さん」
『そしてね、その人とずっと一緒にいてね』
そうか、そうだったのか。
「うん、わかった」
あの日と同じ言葉をアソラは死神に返した。




