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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
侍女たちの本業
107/120

09

 今度こそ右の拳がクゥロの顔面に叩きつけられる。

 ぐらりと体の芯がぶれたとき、続け様に左の拳を叩きつける。

「くっ、っそがぁぁぁぁっ」

 鼻血を垂らすクゥロがアソラの顔面を同じように殴る。

 その衝撃に視界が揺れるが、掌から抜いたナイフで襲ってくるクゥロが見えたのでアソラはそれを避ける。しかし完全に避けきることはできず、ナイフは頬を掠め、アソラの頬には一筋の傷がついた。

 クゥロと十分距離を置いたアソラは口の中に広がる血をぺっと吐き出す。

 それを見たクゥロは「ふはっ」と楽しそうに笑った。

「お上品な仕事してても根は変わらないんだな。昔見たお前のままだ」

 口を腕で拭うと、どちらの血とも分からない血がアソラの唇を汚した。

 真っ赤なその唇を見たクゥロは「残念だな」と零す。

「なにが」

「戦争なんかなきゃ、顔に傷も作ることもなく、男を作って、子どもにも恵まれて幸せに過ごせていたのかもしれないのにな」

 アソラの眉間に皺が寄る。

「まぁ、そもそも俺も戦争なんかなきゃハァクとあのちっぽけな村でずっと馬鹿やって笑い合えていたんだろうけど」

 はぁ、とクゥロが息を漏らす。

「故郷が無くならなければ、親が生きていれば、戦争なんておきなければ」

 足がもつれ、クゥロは壁に体を預けた。

 彼の足元には大きな血だまりができていた。

「こんなたられば言っても仕方ないけどな、そう思わずにはいられねぇよ」

「確かに」

 アソラはクゥロに近づき、拳銃を構える。

「戦争なんかなければ痛いことも、辛いこともなかったかもしれない。それでも」

 マリーが笑う顔が浮かぶ。

 マリーがアソラを呼ぶ声が聞こえる。

「戦争がなければ、出会えた人に出会えなかった」

 その顔を見たクゥロはつまらなさそうに呟いた。

「あーあ、前言撤回。あんた昔とちょっと違うわ」

 パァンッと銃声音が響くと、クゥロの体が横たわった。

 それと同時にアソラの体も崩れ落ちた。

 視線を下げると先程撃たれた場所とは反対側にナイフが刺さっていた。

「ちっ」

 思わず舌打ちが零れるアソラ。

 彼女の頭上からはらりと桃色の花びらが舞い落ちる。

 

 ―――来た。


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