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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
侍女たちの本業
106/120

08

「俺は先の戦争で満足に動けるまで五年かかった」

 アソラは微動だにしない。

「そこから、お前を探した。黒い髪とアソラという名を聞きまわり、各地を転々とした。黒い髪ってだけで噂が広まるからな、この国に入ってから簡単に見つけることができたよ。そして、お前とジョーダン家を探っていた時にスティーブンに声をかけられた。ただ殺しの依頼かと思っていたらまさかの執事になれとかいうから、正直逃げようかと思った」

 当時を思い出し、クゥロはため息をついた。

「でも、ハァクがいたんだ」

 クゥロが初めてアンリを見たとき、その瞳から目が離せなかった。

 その瞬間、クゥロの周りは昔に失くした故郷の風景に変化した。

 空高く、入道雲が浮かぶ、ある暑い日、小さなクゥロとハァクは木陰で寝ころんでいた。

『ハァク見ろよ!』

『何をー?』

『葉っぱ、キラキラしててハァクの目と同じ色だ』

 ハァクは照れくさそうに笑った。

『あんな綺麗じゃないよ』

 あのとき細められた目から見えた、どんな石よりも美しいハァクの色。

 忘れもしないあの日、黒い悪魔がハァクの喉元を掻っ切った。ハァクは悪魔を見て、そして倒れているクゥロを見た。それが最期に見たハァクの色の終わりだった。

 爆風に吹っ飛ばされ、手足が動かず、倒れこんだハァクの元へ行くことも叶わない。

 どうして自分は生きているのか、と狂いそうだった。

「ハァクの目は回収することができなかった」

 戦死者はゴミのように引きずられ、あちこちで山になって燃やされた。

 そしてクゥロが目を覚ましたときには既にハァクの遺体は炭になっていた。

 アンリを見たとき、クゥロは次こそは、と決意した。

「お前を殺したら、あの目を回収して、故郷に帰るんだ」

 言い終わると同時にクゥロは引き金を引く。

 パァンッと音が響くと同時にアソラの背後の窓ガラスが割れた。

「っ!?」

 クゥロの右肩に痛みが走る。

 窓の外から狙撃されたと理解し、姿勢を低くすると正面から同じように姿勢を低くしたアソラが突っ込んできた。右の拳がクゥロの顔面を襲う。体を反らし拳を避けると、右側から月明かりに煌めく刃がクゥロ目掛けて振り下ろされた。

 掌を貫通した刃から滴る血が廊下の絨毯を汚す。

 クゥロは奥歯を噛み締めながら、左手で銃を撃つと、アソラが膝をついた。

「はっ、ははは」

 アソラの腹部からじわりと血が滲む。

 右手にナイフが刺さったままのクゥロは、その姿を見て楽しそうに嗤っている。

「っ」

 アソラは足に力を入れ、右足を踏み出した。

 怪我をしているとは思わせないスピードでアソラがクゥロの間合いに入る。

「舐めるな」

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