05
「はぁ、そうかい。できれば殺さないでくれよ」
「殺したりはしないさ」
背後から第三者の声が聞こえ、フィーノが驚き振り返るとそこには眼光が鋭い執事が立っていた。
「ハロルド様!」
ワントーン高くなった声がガラの口から発せられる。
「ガラ」
「あ、執事長! 見回りですか?」
先程までの鬼神のようなオーラは消え、見えない尻尾が勢いよく振られるその姿はまるで忠犬のようだ。
「あぁ、野良犬が一匹入りこんだようでな」
「それって、俺のことではないよな?」
フィーノが尋ねるとハロルドは「あぁ」と肯定した。
「一度飼われた犬は野良ではないからな」
「……そうかい」
「ガラ、この者を連れて来なさい」
見えない尻尾を振ったガラは「はい!」と年相応な元気な返事をした。
「ハロルド、ね」
フィーノが言うと、隣でその呟きを聞いたガラが凄まじい勢いでフィーノの方へ顔を向けた。
「ハロルド様だ!」
「お前、あのハロルド、様をどう思ってるの?」
そう尋ねると彼は目を輝かせて、滔々とハロルドの素晴らしさを語り出した。
「というわけで、とても素晴らしい人なのだ!」
永遠とも思えるその話を聞き終えて、フィーノは話の振りを間違えたと思った。
「お前もそう思うだろう!?」
「あー、そうねぇ」
前を歩く姿勢の良い老執事。
その姿がとある男と重なる。
今から二十年前。
背の高い、眼光が鋭いあの男は目の前に広がる多くの死体を眺めていた。
あのとき、部隊長は多くの部下の死をどう思っていたのだろか。
「素晴らしい人、ねぇ」




