04
「あんたこそ元軍人じゃないのかよ」
馬鹿力め、と悪態をつくとガラは首を傾げた。
「軍人というのは十一の子どもでもなれるものなのか?」
「あぁ、なれる……って、じゅう……?」
今、聞こえた言葉を再度脳内で繰り返し、フィーノは今日一番目を丸くした。
「は!? お前今、二十一なのか!?」
侵入者とは思えないほどの声が響く。
「? そうだが」
「いやいやいや、何食ったらそんな体になるんだよ!」
「朝はパンと牛乳、卵と野菜。昼は学食で、夜は基本肉か魚がメインで、食後のデザートには果物があり」
律義にすべて答えるガラにフィーノは「お前、実はいいところの坊ちゃんか!?」と叫ぶ。
「いいところかどうかは知らんが、父親はサラズェ・ハーリスだ」
「サ、サラズェ・ハーリス!?」
マルリット・ジョーダンの名ほど知られてはいないが、ごろつき界隈でサラズェ・ハーリスの名を知らない者はほぼいない。
「警察のトップじゃねぇか!」
ガラ・ハーリスは警察のトップであるサラズェ・ハーリスを父親にもつ、ハーリス家の次男だった。
「……なんでそんなボンボンがこんなとこで執事やってんだよ」
「それは、話せば長くなるが」
「長くなるならいいわ」
フィーノは手で制止した。
「てことは、お前をもし殺しでもしたら俺は警察のトップを敵に回すってことか?」
大きなため息とともに言うと、ガラはまた首を傾げた。
「お前に殺されるわけがないだろ」
「……お前さ、俺が大量の爆弾を巻きつけてここにいるかもとか考えねぇわけ?」
さもあり得ないといった感じのガラに、フィーノが呆れたように言うと、ガラは口を開いた。
「俺は今のところ死ぬ予定はない」
斜め上を行く言葉にフィーノは「はぁ」と言葉を漏らした。
「だから死ぬことはないだろう」
フィーノは暫く黙り込んだ後、今日一番大きなため息をついた。
「お前、実は馬鹿だろ」
「……喧嘩なら買うが?」
「いや、もういい。俺も二十一の若造で、さらに警察トップの息子を殺す気はない。できることなら、このまま帰らせてくれ」
お手上げのポーズをする。
ガラは「それはできない」と答えた。




