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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
侍女たちの本業
101/120

03

 玄関から屋敷内部へ足を踏み入れたフィーノは「あーあ」と呟き、天を仰いだ。

 豪華なシャンデリアが見える。あれ一つで三年分は食べて行けそうだ、と現実逃避をしたが、さすがにこのまま何も対策をしないのはまずいということで、窓を割った。

 内部に籠った空気が外へ流れていく。

 歩きながら、あと三枚ほど割る。

 だいぶ新鮮な空気になり、フィーノは安堵の息を漏らした。

「毒か?」

 ごろつきの寝床よりも遥かに高級な絨毯に伏している男たちの傍にしゃがみ、顔を覗き込む。息はある。

 気絶しているだけのようだった。

 だが、眉間に深い皺を刻み、ついでに唸り始めた。

「悪夢でも見てんのか」

 それで済んで良かったな、とフィーノは小さく笑った。

 すると奥から誰かが近づいて来る音が聞こえた。

 さすがにあれだけ派手に窓が割れる音が響いたら、誰か来るだろうと思っていたフィーノは急ぎ立ち上がり、音がする方とは反対側へ走り出した。

 背後から誰かが同時に走り出す気配がした。

 真夜中の追いかけっこが始まる。

 階段を数段飛ばして駆け上がり、長い廊下をまた走り出す。

 途端にフィーノの背中に悪寒が走る。

 嫌な予感がし、振り返ると目の前に大きな壺が迫っていた。

「うぉっ!?」

 ギリギリでそれを避けると、壺はけたたましい音を立て、見るも無残に割れた。

「なんだ、避けたのか」

 男がフィーノの前に現れる。

 フィーノも大きいと言われる部類に入るが、目の前の男はさらに大きい。

 筋肉質な腕が嫌でも目に入る。

 あの腕で、先程の大きな壺を、あの距離を投げたかと思うと、彼しかできない芸当だと納得した。

「本当はもっと侵入者が入ってくると期待していたのだが」

 楽しみにしていたのだろう、がっかりしたように彼は肩を落とした。

「で、ここまで来たお前は元軍人か?」

 フィーノは「ただのごろつきだよ」と答えると同時にガラに向かって、小型のナイフを投げる。ガラはそれを避け、フィーノに突っ込んでくる。

 掴まれたら終わりだと察したフィーノは伸びてくる右手を交わし、警棒を思いっきりこめかみ目掛けて叩きつける。しかし、ガラはそれを左腕で受け止める。

 痛みに顔を顰めるわけでもなく、そのままガラは警棒を右手で掴み、力いっぱい後方へ投げ飛ばす。掴んだままだと体ごと吹っ飛ばされないので、フィーノはすぐさま手を離した。

 警棒はそのまま遥か後方へ飛んでいき、遠くで落ちる音が響いた。

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