01
「アソラァァッ」
青空の下、大声が響き渡る。
探していた人物が見つからなかったのか、その声は再度響いた。
「アソラァァァァッ」
声の主は、タントッラ王国でも五本の指に入る資産家マルリット・ジョーダンの愛娘、マリー・ジョーダン。十三歳の令嬢である。
「遅れて申し訳ありません。マリー様」
その声に誘われて現れたのは、ジョーダン家に仕えるアソラ。
黒い瞳に黒い髪、周りには気味悪がられているその容姿だが、マリーはアソラを見つけて眉を顰めるどころか、目を輝かせた。
「アソラ! 見てちょうだい!」
そう言って手に持っていた十数本の花を見せた。
「……マリー様、それは奥様が大切に育てていらっしゃって、もう少しで満開になると楽しみにされていたお花では?」
「あら、そうなの? もう十分綺麗じゃない」
悪びれる様子もなく花の香りを嗅ぐマリーの姿は天使そのものだ。
白い肌に、宝石のような美しい瞳、薔薇のように赤い唇、太陽に反射する金色の髪。
その眩しい姿にアソラが目を細めていると、マリーがアソラに近づいて来た。
「どうかされましたか?」
「アソラにあげるわ」
「え?」
有無を言わせぬ勢いで、マリーは花を持っていない方の手でアソラの手を掴み、その手に花を押し付けた。
花を持ち困惑するアソラを見て、天使は満足げに微笑んだ。
「だってアソラにあげたかったから、摘んだのよ?」